■W脚本のメリットは?
ーー森さんとモラルさんのお二人で、「こういう作品にしよう」といった方向性を話し合うことはありましたか?
モラル あんまりなかったですよね? お互いの作品に口を出すことは特にしていなかったです。
森 そうですね、お互いやっぱり作家ですし、言われたら嫌だろうなと思いました(笑)。
ただ、自分はシリーズ構成という立場なので、まずはそれぞれ原作の中で面白いと思うエピソードを出し、その後どういう順番で放送するかは話し合いました。
クセの強い四杉遥というキャラクターを、全12話の中でどの頻度で登場させるか。ひろしの後輩・川口をどこで使うかというざっくりとした全体像を決め、モラルさんが面白いと思っている話数については、そのままお任せする形で作りました。
ーー二人体制で脚本を書くことのメリットは何だと思いますか?
モラル メリットだらけだと思いますね。何より、めちゃくちゃ刺激になりました。直接作品について語り合うことはあまりなかったですが、打ち合わせは一緒にやっていて、森さんが書いた部分がやっぱりすごく面白いんです。表には出さなかったですが、「負けないぞ」という気持ちになれたと思います。
森 ひとりで書いていると、どうしても行き詰まりますし、話によって差が出てしまうこともあります。でも今回の現場は、毎回お互いの脚本がその場で評価される環境でした。なので、 「今回はモラルさんのほうが直しが少なかったな」とか「褒められていたな」とか、結構意識していました(笑)。二人だったからこそ、お互いにパワーが生まれていたのは間違いないです。
ーーお互いの脚本で「ここが良かった」と思った点を挙げるとしたら?
森 モラルさんは、第3話の「沖縄そばの流儀」しかり、笑いを入れつつ、登場人物の感情を的確にセリフで表現できるのが本当に素晴らしいなと思いました。僕は「最後にチャイは勝つ」みたいな言葉遊びが多いんですが、モラルさんは物語としてジーンとする瞬間も作れるし、それでいてちゃんと面白いんですよね。
モラル 自分からすると、森さんは言葉遊びもそうですが、セリフのやり取りや言い回しで物語を練り上げていくのが本当にすごいです。第4話「駅弁の流儀」では、新幹線に乗ったひろしが、両隣に座った人の弁当に対しツッコミを入れるという構成なんですが、あそこまで言葉で組み立てていく力はマネできないです。
森 なんだかこのくだり、うれしいですね(笑)。ニヤニヤを抑えるのに必死でした。同業者に褒められるのはめちゃくちゃありがたいです。
モラル あまりこういう機会もないですからね(笑)。本当にいいチームだと改めて思います。
ーー野原ひろしというキャラクターについても伺います。本編『クレヨンしんちゃん』のひろしと、『昼メシの流儀』のひろしでは、少し描写が違うようにも感じますが、その点はどう捉えていますか?
モラル 自分はアニメ『クレヨンしんちゃん』の脚本も担当していますが、描写の違いというより、ひろしのどの面を切り取ったか、の違いだと思います。
『クレヨンしんちゃん』では父親としてのひろしが中心に描かれますが、この作品ではひとりのサラリーマンとして、羽を伸ばしているひろしを描いています。なので、同じ人物の違う一面をどう描くかという点は意識していました。
森 僕は、そもそもターゲットが違うと思っています。『クレヨンしんちゃん』と比べると、本作はひろしと同世代の人たちが見るのと想定していました。なので、僕自身が昼ご飯を食べながら感じたことを書き込んだり、中堅サラリーマンが共感できそうな「あるある」を積極的に取り入れました。
ただ自分は、野原ひろしのセリフを書くのは今回が初めてなので、とりあえずたくさん書いて「ダメだったら止めてください」というスタンスで書いていました。
■手のかかる? 後輩・川口に思うこと
ーー改めて、お二人にとって「野原ひろし」とはどんな人物でしょうか?
森 おじさんの悲哀の集合体みたいな存在だと思います。誰しも、仕事や人間関係、育児と悩みを抱えていて、それはひろしも同じです。同世代が共感しながら見る存在ですし、だからこそ愛される。書けば書くほど好きになっていく人物でした。
モラル 特別秀でた能力があるわけでもないけど、家族思いで誰にでも優しい、ひとりのお父さんでありサラリーマン。普通だからこそ、身近に感じられるし、目標にしたい人物だと思います。
ーー最後に、作品を楽しんでいる視聴者へ一言お願いします。
森 制作チームは非常に楽しく作品に臨んでいて、視聴者からもたくさんの反応をもらえるので、できることなら、永久に書き続けたいと思っています。ですのでぜひ「第2期を求む!」という声をたくさん上げてほしいですね(笑)。
それから本作の11話と12話はいつものオムニバス形式ではなく、地続きの展開も用意してあって、今からその反応にドキドキしています。1話完結のシンプルさがなじんでいるので、「そんなのいらない」と言われる可能性も否めないですが(笑)。
モラル 視聴者の皆さんのおかげで、この作品が注目されています。そのおかげでインタビューしてもらえる機会も生まれたので、本当にありがたいです。僕自身も、まだまだひろしの昼メシを書き続けたいので、引き続き『野原ひろし 昼メシの流儀』をよろしくお願いします!
ーーありがとうございました。
森 あ、すみません最後に一つだけ。川口が視聴者さんに嫌われすぎていて、ちょっと悲しいです(笑)。僕らは結構好きなキャラクターなんですよ。楽しいし、人間臭くて愛くるしい存在なので、ぜひ温かい目で見てもらえたらうれしいです!
<プロフィール>
森ハヤシ(もり・はやし)
1978年生まれ。コントグループWAGEとして活動をスタート。2005年に解散後、ドラマ、アニメ、映画などの脚本を手掛ける。主な作品に映画『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』、『SANDLAND』、ATPドラマ部門最優秀賞『クラスメイトの女子、全員好きでした』、日本民放連最優秀賞作品『チャンネルはそのまま』など。
モラル
1987年、福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。スピーディーな展開に怒濤のギャグを詰め込むコメディを得意とし、テレビドラマ、舞台、アニメーションなど、様々な媒体で幅広い執筆活動を行なう脚本家。主な執筆作に劇場アニメ「映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐⻯⽇記」、映画「裏社員。 スパイやらせてもろてます」、ドラマ「婚活バトルフィールド37」、「スタンド UP スタート」、「極主夫道」など。




