『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて、2014年から2024年まで連載されたバトル漫画『僕のヒーローアカデミア』。2016年から8期にわたって制作されたアニメも2025年12月13日でついに最終回を迎え、余韻に浸っているファンも多いのではないだろうか。
物語が完結した今こそ、「あれは伏線だったのか」と思わされてきた数々の場面が、どのように物語全体を構築していたのかを再確認したくなる。
初期から散りばめられていた違和感やキャラクターのさりげないひと言が、どのように終盤の劇的なドラマへと結びついていったのか。
ここでは、作者・堀越耕平氏が物語の根幹にかかわる部分にまで張り巡らせていた、いくつかの「長期伏線」の回収劇をたどっていく。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■長年の謎…ずっとささやかれてきた「雄英高校の内通者」
雄英高校ヒーロー科1年A組に潜んでいた“内通者”の正体が、主人公・緑谷出久のクラスメイト・青山優雅であったと判明した展開は、本作屈指の衝撃的な「伏線回収」だったといえるだろう。
「林間合宿編」以降、敵<ヴィラン>側が雄英側の動きを正確に把握していたことなどから、“校内に内通者がいるのではないか”という疑念は、ファンのあいだで長く語られてきた。
一方で、個性を発動すると決まって「お腹が痛い」などと言いながら意味深な動きをみせる青山の様子や、月明かりの中で眠る出久を見つめるシーンなどは、読者がずっと引っかかっていた“違和感”でもあった。
その答えが明かされるのが、ヴィランとの全面戦争に突入したアニメ第7期第3話(第141話)「敵<ヴィラン>」で描かれた内通者発覚のエピソードである。
青山は元々“無個性”であり、オール・フォー・ワンから個性を与えられた過去を持つ。その恩義と、何より恐怖心から敵に協力せざるを得なかったという彼の苦悩が明かされ、これまでのすべての“違和感”が1本の線としてつながった瞬間だった。
最終決戦では、その青山が「偽情報で敵を誘い出す」という作戦の要を担う。これまで敵側に情報を流していた彼が恐怖に打ち勝ち、今度は仲間たちのために偽情報を流す立場となるのだ。
長く続いてきた内通者の伏線が、衝撃の告白と最終局面での活躍という2つのかたちで回収される構成は見事だった。
■蒼い炎を操る個性…敵<ヴィラン>連合・荼毘の正体
敵<ヴィラン>連合の主要メンバーとして登場していた荼毘。通り名である彼は、「(本名は)出す時になったら出すさ」と語り、長く“素性不明のヴィラン”として描かれてきた。
一方で、蒼い炎を操る個性「蒼炎」や、No.1ヒーローのエンデヴァーとその息子・轟焦凍を挑発する態度などから、「轟家と何らかの関係があるのではないか」という憶測が当初から絶えなかったのも事実だ。
その正体がついに明かされるのが、アニメ第6期第11話(第124話)「ダビダンス」である。エンデヴァーの前に姿を現した荼毘は、同時に電波ジャックしたテレビ放送を通じて、自らが“死亡したはずの轟家の長男・轟燈矢”であると全世界に告白する。ここで、これまで「匂わせ」に過ぎなかった数々の描写が、一気に確信へと変わった。
燈矢は幼いころ、個性の暴走が原因で発生した大規模な山火事で行方不明となっていた。遺体が見つからなかったため、轟家は「死亡した」と結論づけたのだ。
だが、彼は生きていた。父に認められなかった絶望、見捨てられたという思い、焼けただれた体、そして積み重なった憎悪が、燈矢を「荼毘」という破壊衝動の化身へと変貌させたのである。
そして最終決戦では、弟・焦凍との壮絶な兄弟対決が描かれ、敗れた荼毘が父・エンデヴァーを道連れに自爆しようとする、悲劇的な展開を迎える。朦朧とする意識の中で「お父さん見て」と叫ぶ姿は、燃え尽きようとする体の奥に残った燈矢の幼い心そのものに見えた。
しかし、母・冷をはじめとする轟一家による必死の冷却と、飯田天哉のサポートで駆けつけた焦凍の個性によって、自爆は阻止される。家族の歪みを長く象徴してきた“荼毘=燈矢”という伏線は、轟家全員が過去と向き合ってようやくたどり着いた「ひとつの決着」として回収された。


