■原作愛が生んだ衝撃の25cmカット『らんま1/2』新垣結衣
最後に紹介するのは、2011年のスペシャルドラマ『らんま1/2』である。
原作は、高橋留美子さんによる大人気漫画で、水をかぶると女の子になってしまう高校生・早乙女乱馬と、その許嫁・天道あかねのドタバタな日常を描いた格闘ラブコメディだ。
1987年から1996年まで『週刊少年サンデー』(小学館)で連載され、アニメ版も社会現象的なヒットを記録した。
この実写版で天道あかねを演じたのが、新垣結衣さんだ。“あかねをどう実写化するのか”という点は、当時大きな注目を集めていた。ドラマ序盤のあかねは原作と同様、腰まで伸びる黒髪ロングヘアであったが、この髪が物語の中で象徴的な意味を持つことになる。
原作でも有名な“髪が切られるシーン”は、ドラマではオリジナルの展開で描かれる。敵組織として登場する集団とのバトル中、相手が投げた鎌を、男乱馬(賀来賢人さん)が蹴り返す。しかしその鎌は軌道を変え、まるでブーメランのようにあかねへ一直線。らんまが身を挺して守ろうとするも間に合わず、あかねの長い黒髪がざくりと切り落とされてしまうのであった。
あかねが大事にしてきたロングヘアを失うという衝撃的な瞬間。そのショックと緊張を、新垣さんの繊細な表情が見事に表現しており、視聴者の記憶に強く残るシーンとなった。
さらに驚くべきことに、新垣さんはこの役のため、それまで自身のトレードマークだったロングヘアを実際に約25cmもカットして撮影に挑んでいる。“原作ファン”を公言する新垣さんだからこそできた、本気の覚悟だった。
後の対談で原作者の高橋さんは、「役のために髪を切っていただき、『いいの!?』と驚きました」と語っており、新垣さん自身も「演じるならば絶対必要なことだと思いました」と明かしている。
自分が子どもの頃から好きだった作品を背負うプレッシャーと、あかねというキャラクターへの敬意。その両方が、新垣さんの大胆なイメチェンとあの名シーンにしっかりと刻み込まれていた。
髪を切るという行為は、見た目が変わるだけの単なる“イメチェン”ではない。ドラマの中では、キャラクターの心が動く瞬間や、人生の転機を象徴する「物語のイベント」として描かれてきた。
たった数秒のヘアカットシーンが、登場人物の未来を動かし、作品の空気をガラッと変え、ときには役者自身の覚悟まで映し出す。だからこそ“髪バッサリ”の名場面は、今も視聴者の記憶にしっかり刻まれ続けているのだろう。


