■誰もスッキリしない…暴投負け『H2』伊羽商業戦

 不朽の高校野球漫画『H2』(あだち充氏)の主人公・国見比呂を擁する千川高校野球部は、公式戦で一度しか負けていない。それが、比呂が2年生夏の甲子園大会2回戦、伊羽商業高校戦であった。

 伊羽商業はサイドスローの名投手・月形耕平と、左の強打者・志水仁を中心に据えた強豪校。とくに月形は比呂を“自分以外に初めてカッコいいと思ったピッチャー”と尊敬しており、試合が始まるまでは正々堂々とした高校野球らしい爽やかな戦いが期待された。

 千川VS伊羽商業の試合は、両エースの好投により9回が終わっても0対0の投手戦となる。比呂は前試合から続いて19イニングをノーヒットノーラン、対する月形も1安打しか許さない見事な投球を披露し、互いに譲らない。勝負の行方は延長戦に持ち越され、なんともハラハラさせる展開となった。

 しかし、延長10回表、偶然月形の手を踏みかけた比呂がとっさに避け、逆に自分の左足を痛めるアクシデントが発生。この試合に勝てば、親友・橘英雄が待つ3回戦が待っている……。比呂はケガの事実を誰にも告げず、痛みを堪えて10回裏のマウンドに向かった。

 血が出るほど歯を食いしばりながら投げる比呂だが、やはり万全ではない。異変を悟った伊羽商業のバント攻撃でランナーを出し、最後は比呂自身の暴投で千川高校はサヨナラ負けを喫するのだ。

 勝利した伊羽商業の月形は、自分を庇って負傷した比呂の弱点を攻めるべきか苦悩していた。甲子園で親友と戦えると信じていた英雄、そして比呂をはじめとする千川高校のメンバーは言うまでもない。勝者も敗者も心にしこりを残す、あまりにも後味が悪い幕切れであった。

 

 不運なケガや理不尽な反則が絡む負け試合は、登場キャラクターだけでなく、読者の心にも大きな影を落とす。だが、今回見てきたキャラたちは、それでも前を向いて次の試合に挑んだ。

 『はじめの一歩』の宮田はこの敗北後に海を渡り、後に東洋太平洋王者に君臨する。『MAJOR』の吾郎はメジャーリーグへと挑戦。『H2』の比呂は翌春の甲子園で全国制覇を果たした。彼らは皆、敗北を糧にして、より大きな栄光をつかんだのである。

 どんなに後味が悪い敗北であろうと、それは終わりではなく、“勝利のためのステップ”になり得る。彼らの悔しい負け試合からは、そんなメッセージが読み解けるのかもしれない。

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