『スーパー戦隊シリーズ』の第17作目『五星戦隊ダイレンジャー』(以下『ダイレンジャー』)のクライマックスは、他に類を見ないほど、とにかく濃い。
放送されたのは、1993年~1994年。バブル崩壊後の閉塞感が日本中を覆いはじめた「失われた10年」の幕が開いた時代である。そんな重たい空気が漂う中、それを突き破るかのように疾走したのが、中国拳法をモチーフとした『ダイレンジャー』であった。
派手な必殺技や巨大ロボの迫力だけでなく、人間の弱さや葛藤、そして逆境に立ち向かう強さを徹底的に描いた濃密なストーリーが心を揺さぶる。
特に終盤の展開は、怒涛、衝撃、混乱、そして感動が一気に押し寄せ、視聴者を圧倒した。戦隊シリーズファンである筆者から見ても、間違いなく屈指のクライマックスであると言える。
今回は、その“濃すぎる”と評される終盤の展開を、いくつかのポイントごとに振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■信じていた味方が敵に!? 道士・嘉挧が突きつけた衝撃の正体
終盤最大の衝撃。それは、長くダイレンジャーを導いてきた道士・嘉挧の突然の変貌である。
嘉挧は、本作の敵・ゴーマ族の侵略に備え、5人の若者をダイレンジャーとして集め、東京駅地下に設けられた基地で指導してきた頼れる参謀役だ。視聴者にとっても、もっとも信頼できる大人の味方として認識されていた。
しかし、物語がクライマックスへ向かう第45話。嘉挧は突如として本部を閉鎖し、赤い甲冑をまとったゴーマの戦士として姿を現したのである。
「ダイレンジャーは解散する!」
あまりにも突然の宣告に、リーダーの天火星・亮(リュウレンジャー)をはじめとするダイレンジャーたちは動揺を隠せない。
嘉挧の正体は、ゴーマ族の参謀長であり、さらに皇族の血筋を引く高位の存在であった。かつては穏健派として激進派と対立し、地上へ逃れてきたという過去を持つ。
戦いが激化した今、彼は停戦協定の条件として「ダイレンジャーの解散」を選び、自らは皇位継承を賭けた試合に臨み、ゴーマ16世となることで平和を取り戻そうとしていたのだ。
しかし、厄介なのは、劇中の嘉挧がこれらの真意をダイレンジャーたちにほとんど語らない点である。理由も説明もないまま一方的に突きつけられた「解散」は、ダイレンジャーたち、そして視聴者に深い混乱と動揺をもたらした。
■変身不能の絶望…シリーズ初の“生身での名乗り”シーン!
さらに衝撃は続く。嘉挧はダイレンジャーに対し、変身に必要な「オーラチェンジャー」と、巨大ロボを呼び出す「天宝来来の玉」の返還を要求する。拒否した亮たちは激しい戦闘へ突入するも、力の象徴であるアイテムを奪われてしまうのであった。
続く第47話は、力を失い、一度は解散を受け入れてそれぞれの日常へ戻った5人の姿から始まる。『スーパー戦隊シリーズ』において、ヒーローが自ら解散しバラバラになる展開は、極めて異例である。
しかし、5人は再び集結。嘉挧の真意を知った彼らは、新たに襲来した敵・ザイドスに対し、変身道具のないまま立ち向かうのだった。
そして訪れる、スーパー戦隊史に残る名場面。変身なし、生身のままでの“名乗りシーン”である。
ダイレンジャーの変身ポーズは、カンフーをモチーフとした『スーパー戦隊シリーズ』の中でも屈指の難易度を誇る複雑な動きとして知られている。そのキレのあるアクションを、スーツを着けず生身のまま、5人の役者全員が完璧な動きで見事に決めてみせた。
シリーズ初となる“5人揃っての生身での名乗り”は、放送から時を経た今なお、ファンに語り継がれる屈指の名場面だ。
なお本話は、『スーパー戦隊シリーズ』史上初めて「メンバー全員が一度も変身しない回」としても記録されている。


