師匠から弟子へ奥義を伝える展開は、少年漫画における王道の1つである。壁にぶつかった弟子を助けるために師匠が奥の手を明かし、それを伝授する流れに師弟の絆を感じるし、奥義の威力を想像するだけでもワクワクと胸が躍る。
名作と呼ばれる少年漫画を振り返ってみると、習得するには師弟が命を賭さなければならなかった奥義も少なくない。そんな技こそ極めて協力であり、憧れるほどにカッコよかったものだ。
そこで今回は、名作少年漫画でおこなわれた命がけの奥義伝授と、そうして習得された奥義の凄まじさを振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■飛天御剣流の哀しい宿命に終止符『るろうに剣心』天翔龍閃
まずは、和月伸宏氏による漫画『るろうに剣心ー明治剣客浪漫譚ー』から、飛天御剣流の奥義「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」だ。神速の殺人剣と謳われる飛天御剣流だが、その技の中でも神速をさらに超える“超神速”と呼ばれる抜刀術である。
コミックス第12巻では、剣心が天翔龍閃を習得するまでの修行の模様が描かれている。師匠の比古清十郎曰く、この天翔龍閃は師匠が放つ「九頭龍閃」を弟子が打ち破ることで代々継承されてきた奥義であるという。
9の斬撃を同時に叩き込む九頭龍閃を破るには、それ以上の速さで斬りこむ以外に方法はない。そのため、天翔龍閃の失敗は弟子の死を意味する。だが、逆に天翔龍閃が成功すれば、奥義の一撃を受けた師匠の命もない。飛天御剣流の奥義伝授は、師弟どちらかの死によってのみ果たされてきたのだ。
剣心も天翔龍閃を習得した結果、比古に致命傷を負わせてしまう。だが、逆刃刀のわずかな不調が幸いし、比古は一命をとりとめた。飛天御剣流に伝わる哀しい宿命は、剣心の「不殺(ころさず)」の信念によってついに幕を閉じたのだ。
その後、天翔龍閃は剣心の切り札として幾度となく彼の窮地を救うこととなる。この超神速の抜刀術は破壊力抜群なだけでなく、万が一回避されても斬撃が生む真空空間が相手を捉え、2撃目を確実に叩きこむ「隙を生じぬ二段構え」だから恐ろしい。この天翔龍閃の極意である左足の踏み込みを、子どもの頃に真似した読者も多いのではないだろうか。
■大魔王も恐れた極大消滅呪文は習得も命がけ!『ダイの大冒険』メドローア
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)には奥義と呼ぶべき技が数多く登場する。その中でも、習得過程が特に印象的な技といえば、ポップが使う「極大消滅呪文(メドローア)」は外せないだろう。
火炎のメラ系呪文と氷のヒャド系呪文を全く同じ出力で合成させ、万物を消滅させる呪文を生み出す……それこそがメドローアの正体だ。ポップの師匠である大魔道士マトリフですら数えるほどしか使ったことのないという、彼曰く“おっかねえ”切り札である。
実際、メドローアを覚えたポップは魔王軍から常に警戒されることとなった。大魔王バーンですらこの呪文を警戒しており、使われたら「マホカンタ」や「フェニックスウイング」といった防御手段で凌がざるを得なかった。まさしく、決まれば大魔王すら消滅させるであろう、絶対的な奥義なのだ。
コミックス第18巻「極大呪文の秘密!!の巻」では、ポップがメドローアを習得するエピソードが描かれているのだが、その方法がすごい。それは、マトリフが放つメドローアを、ポップが見よう見まねの同じメドローアで相殺する。これだけだ。
ポップはこの時、メドローアの存在を知ったばかりであり、当然ながら練習なんて1度もしていない。失敗すれば師匠の手でこの世から消えてしまう荒行を、ぶっつけ本番で成功させるしかなかったのだ。
あまりの無茶ぶりにポップも「逃げてよけるしかねえよおおっ…!!!」と怯えていたが、メドローアを撃とうとするマトリフの口元が血で染まっていることに気づく。100歳近いマトリフにとって、この呪文は体への負担が極めて大きい。それにもかかわらず、彼は命を削ってでも弟子に奥義を教えようとしていたのである。
師匠の想いに覚悟を固めたポップは、マトリフのメドローアを即席のメドローアで相殺してみせた。こうして彼は、消滅か奥義伝授かという究極の賭けに勝利したのだ。大魔王すら恐れる極大消滅呪文の習得は、師匠と弟子、それぞれの命がけの覚悟によって成し遂げられたのである。


