■どん底から這い上がる昭和の浪人生『冬物語』

 前述の2作品もそうだが、昭和後期から平成前期の漫画には浪人生がよく登場する。大学設置基準の緩和や少子化、入試制度の多様化により、令和の現代ではその数も減ったが、受験競争のピーク時には、実に35%を超える学生が浪人生だった。

 1987年から『少年ビッグコミック』『ヤングサンデー』(いずれも小学館)で連載されていた原秀則さんの『冬物語』の主人公・森川光もその1人。彼は受験した4つの大学はおろか、滑り止めの八千代商科大学に落ち、さらに彼女にも振られ、まさにどん底の状態で浪人生活をスタートさせた。

 予備校で雨宮しおりに一目惚れした光は、間違えて彼女と同じ東大専科コースに入ってしまう。だが偏差値の差についていけず、さらに彼女が好きな人のために東大を目指していることを知り傷心。結局、私立文系コースへ移り、そこで新たに出会った倉橋奈緒子にも恋心を抱き、以降2人の女性の間で揺れ動くことになる。

 日東駒専を目指すコースの雰囲気は、東大コースと違って緩やかだった。光もその空気に流され、講義をサボっては恋にうつつを抜かし、勉強に身が入らない。

 そして迎えた受験当日。家族へのコンプレックスを抱えながら2浪していた奈緒子は、慶応医学部に合格。一方、東大を受けたしおりは不合格となった。そして光は日大・専修大・駒沢大に落ちるも、前年に落ちた滑り止めの八千代商科大学には合格。勉強していないのだから、光の結果は当然である。

 だが、光はあろうことか八千代商科大学の偏差値を恥じ、親に内緒で休学。奈緒子もやりたいことを見つけるため慶応入学を辞退し、結果、全員が再び浪人生となった。

 光は改めて日東駒専を目指すも、やはり恋に心を奪われ、気合が入らない。彼のこうした優柔不断さや迷いやすさが、本作の1つの軸でもある。

 そもそも強い志望動機もないのだから仕方がないのかもしれないが、学費を負担する親目線で読むと、彼の身勝手な行動にモヤモヤが募る。母親が泣きながら諭す場面は非常にリアルで、思わず共感してしまった。

 しかし、奈緒子が自分の道を歩み出し、しおりも再び東大を目指す姿を目の当たりにして、ようやく自分自身と向き合い始める光。そして、3度目の試験でついに専修大商学部に補欠合格を果たしたのであった。

 

 今回取り上げた作品を振り返ると、受験生である主人公たちがほとんど受験勉強をしていないことに驚く。その一方で、東大合格を目指してストイックに勉強に励む『ドラゴン桜』や、中学受験に命を燃やす『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』のような、正統派受験漫画も存在する。

 その勉学に対する向き合い方は対照的だが、どちらのタイプの作品も現実の受験生にとって刺激になる部分はあるだろう。合間の息抜きに、読んでみてはいかがだろうか。

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