1955年の創刊から今年で70周年を迎えた『りぼん』(集英社)。数々の名作を生み出してきた本誌だが、なかでも90年代の『りぼん』黄金期を牽引し『天使なんかじゃない』や『ご近所物語』『NANAーナナー』といった大ヒット作で一時代を築いた矢沢あい氏の存在は、もはや伝説だ。その繊細な心情描写や、ポップで洗練されたファッションセンスは多くの読者を夢中にさせた。
しかし、これらの長期連載作品が生まれる以前にも、矢沢氏は心に残る短編作品を数多く発表している。そこには、後の大ヒット作へと繋がる才能の片鱗が、すでにキラリと光っていた。今回は、そんなブレイク前の名作短編を振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■デビュー2作目にして早くも輝く矢沢作品ならではのテーマ性『15年目』
『15年目』は、矢沢氏のデビュー作『あの夏』(1985年集英社『りぼんオリジナル』早春の号)に続き、同年の夏の号に掲載されたデビュー2作目の作品だ。
主人公の中学3年生・藤原千里は、同じ軽音楽部に所属する杉本圭介に想いを寄せている。圭介もまた千里に好意を抱いており、ついに告白をした。
しかし、千里には15年来の親友で幼馴染の高瀬玲子がおり、玲子もまた圭介のことが好きだった。圭介から返事を聞かせてほしいと言われるも、千里は玲子の気持ちを気遣い、彼に本音を伝えられずに葛藤するのである。
親友と同じ人を好きになってしまい、その気持ちを打ち明けられずに悩むという展開は、まさしく少女漫画の王道だ。しかし本作では、単なる友情や恋愛に留まらない、思春期の少女が抱える内面的な葛藤がリアルに描かれている点が特徴的だ。
後の矢沢氏のヒット作品に通じる、独特の寂しさや切なさがテーマになっていることにも注目だ。
■恋が人生の目標にもなる『ラブレター』
1986年に『りぼん』12月号から連載された『ラブレター』は、中学生の星野ひとみが数学の武田先生へ抱く淡い恋心を描いた作品だ。ひとみはその憧れを原動力とし、先生の出身校である名門・東高校への進学を目指し、猛勉強に励む。
ひとみにとって、武田先生への恋は、進学という現実的な目標と固く結びついている。この「恋が夢や目標に繋がる」というテーマは、後の『天使なんかじゃない』で主人公たちが生徒会活動や進路選択に真摯に向き合う姿や、『ご近所物語』で幸田実果子がプロのデザイナーを目指して邁進する姿にも通ずるものがある。
しかし、ひとみが先生への想いを綴ったメモが校内で見つかってしまい、彼女は窮地に陥る。さらに、ひとみに想いを寄せるちょっとヤンチャな同級生・宮田一矢という男子生徒も、自分の気持ちを素直に出せない性格から波乱を巻き起こすのだ。
ひとみの先生に対する純粋で一途な想いと、同級生との複雑な関係という、思春期特有の甘酸っぱい感情を呼び覚ましてくれる作品だ。


