明治時代を舞台にしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』で、主人公・松野トキ(髙石あかり)の母親・フミを演じる池脇千鶴の演技と徹底した役作りが注目されている。
「ふくよかで年季の入ったお母さんの手…NHK朝ドラ『ばけばけ』で好演『池脇千鶴』は“美魔女”と真逆をゆくストイックな女優道」(AERA DIGITAL)、「池脇千鶴、朝ドラ『ばけばけ』での変貌ぶりウラに『顔かたちや体型まで変化』驚異の“役作り”」(週刊女性PRIME)などと、各メディアは演技力とプロ意識を称賛している。
ただ、その土台にあるのは“見た目の変化”だ。記事は概ね、それを前提に書かれている。
見た目の変化を伴う役作りが話題になるのは今回が初ではない。2021年放送の主演ドラマ『その女、ジルバ』(フジテレビ系)、2024年の『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系)、2025年の『秘密~THE TOP SECRET~』(フジテレビ系)出演時にも、同様の話題でネットがざわついた。
池脇は、若々しさや痩身の維持を目的化せず、俳優として役に自分を落とし込むことを重視している印象だ。さかのぼれば、2015年公開の映画『きみはいい子』の舞台挨拶で「(プロデューサーから)『太ってくれ』と言われた」と明かしている。30代の頃からそのスタイルを貫いてきたのである。
今回、連続テレビ小説に出演することで、その哲学がさらに多くの人々に共有されたということなのだ。
ただ、池脇を“体型変化の人”としてだけ語るのはあまりに表層的だ。そこには、ひとりの俳優として積み重ねてきた時間と成長の軌跡がある。そして、出発点となった初期作では、当時だからこその輝きを確認できる。そこを踏まえると、現在の彼女の見え方がより深まってくる。
■『ASAYAN』のオーディションで8代目リハウスガールに
池脇千鶴は1981年11月21日生まれ。2025年の誕生日で44歳になる。同業者では柴咲コウ、安達祐実、星野真里が同い年。1歳上に広末涼子、田中麗奈、1歳下に深田恭子、真木よう子、吹石一恵がいる。
芸能界入りのきっかけは、15歳だった1997年、テレビ東京系『ASAYAN』の「CM美少女オーディション」で実施された「三井のリハウス」“リハウスガール”オーディションに合格したことだ。
1987年に始まった同シリーズは宮沢りえの出世作で、その後は坂井真紀、一色紗英らが引き継いだ。同CMの演出を手掛け、映画監督としても実績のある市川準が、約8,000人の応募者から池脇を見い出し、第8代リハウスガールに起用した。
池脇がデビュー作として出演したCMは、住み慣れた家を売却し、新居へ移るまでの家族のプロセスを描いた連作で、妹を幼き井上真央が演じた。
約3年にわたるCMシリーズは、彼女の15歳から17歳までの成長を克明に刻んだ。とくに高校の教室でクラスメイトに別れを告げるバージョンでは、長台詞を自然にこなし、演技者としての才を強く印象づけた。
『ASAYAN』経由で吉本興業系のプロダクションに所属した池脇は、バラエティの空気が濃い出自でありながら、その方向に流れなかった。アイドル路線で歌手デビューすることもなかった。演技者として大切に育てられたのだ。テレビドラマを避けたわけではないが、キャリアの重心を映画に置いたのは明確だ。しかも大手の大作だけに寄らず、初期は特にミニシアター系の作品に意欲的に出演し、それがキャリアの礎となった。
以下、“アーリー池脇千鶴” を代表する3作品を振り返ってみよう。


