■物騒なタイトルで語られた「強烈な個性」たち
最後に紹介する『アパッチ野球軍』(1971年)は、原作・花登筐氏、作画・梅本さちお氏による同名の漫画が原作。かつて高校野球のヒーローだった青年・堂島剛が、過疎の村で不良少年たちに野球を教える物語だ。
荒くれ者ぞろいのダム工事関係者と閉鎖的な農村の人々、その両方の子どもたちが狭い教室で反発し合う光景は、まるで大人社会の縮図のようでもあった。
同アニメにおいて高畑氏は26話中3話に演出として参加。中でも強烈なタイトルだった第2話「他国者(よそもの)は刺せ!」の回を担当しており、キャラクターの個性が凝縮されたエピソードだった。
宿舎で寝ていた堂島は突然ヘビを投げ込まれるが、犯人はだんご鼻の少年・ハッパだった。さらに怪力を誇る巨漢・材木(ザイモク)が、オノで打ち返すから丸めたヘビを投げてこいと堂島に勝負を挑んでくる。
その後もキノコを採りに山に入ると大勢の不良に取り囲まれ、テンガロンハットを被った飯場の子・網走(あばしり)にナイフを投げつけられたりと不穏な展開が続く。
ところが「夕飯の時間」になると、不良たちはそろって「もう晩飯の時間かよ」と帰っていく。それまでのひりつくような緊迫展開とのギャップがすさまじい。
とっぴすぎるのは生徒だけではない。野球部のコーチとなった堂島のほうもかなり個性的で、まだ誰も野球をやると言ってないのに、グラウンド整備をしないなら野球をやらなくていいと怒鳴る。また網走が投げたナイフをバットで打ち返すので、「一歩でも動いたらお前の負け」ととんでもない賭けを提案するなど、とにかく尖っていた。
こうした個性的な人物たちが一気に登場した第2話は、ともすれば収拾がつかなくなり、視聴者が置いてけぼりになりそうな回だ。だが「負けず嫌い」「お調子者」「プライドが高い者」など、実に分かりやすくキャラが配置されていたおかげで、気づかぬうちに物語に引き込まれる。
タイトル自体は非常に物騒だが、堂島と不良たちの出会いをスムーズに演出した高畑氏の手腕が光ったエピソードといえるかもしれない。
後年はアニメ映画監督としての印象が強い高畑勲氏だが、昭和のテレビアニメでの活躍が忘れられないファンも多いことだろう。わずか30分の映像の中にしっかりとした人間ドラマを描き、キャラクターに命を吹き込んだ演出は圧巻である。
そして半世紀以上も日本のアニメーションに携わり、数々の名作を生み出してきた高畑氏は2018年に肺がんのため逝去。享年82歳であった。
だが高畑氏の作り出したアニメ作品は、多くのキャラクターとともにファンの心の中で永遠に生き続ける。高畑氏の手がけた映画作品で興味を持った人は、ぜひ昭和を彩ったテレビアニメ作品のほうもチェックすることをオススメしたい。


