フジテレビ系で放送中の、三谷幸喜さん脚本によるドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』。菅田将暉さん演じる主人公の演出家・久部三成が目指す”クベシアター”の構想もいよいよ動き出し、シェイクスピアの『夏の世の夢』上演に向けてWS劇場の面々も活気づいている。
10月22日に放送された第4話では、翌日の初日公演を前についにゲネプロ(本番を再現した通し確認)がスタート。かつて久部が立ち上げた劇団「天井天下」の妨害にあったり準備不足を嘆いたりしながらも、一同は舞台成功に向けて団結していく。
それぞれが自分の役柄に向き合う中で、ひと際輝きを放っているのが用心棒トニーを演じる市原隼人さんだ。前話で役者としての才能が開花したトニーは、再びキラッと光る名シーンを生み出しており、ギャグパートの多い同作の中で感動的演出が目立つキャラでもある。今回は、覚醒が止まらないトニーの魅力に迫ってみよう。
※本記事は作品の内容を含みます。
■コワモテ×シャイ×人情派なトニーが放つ圧倒的な存在感
演出家、放送作家、ダンサー、芸人、ぼったくりバーの店員とさまざまな立場の人々が交差する本作において、市原隼人さんが演じるのは「WS劇場」の用心棒・トニー安藤。寡黙で人前に立つこともないため、初回から目立つ存在ではなかったが、静かに舞台の端にたたずみ、眉間にしわを寄せて周囲をぎろりと見渡すその姿は異彩を放つ。
そんなトニーは『夏の夜の夢』で、ハーミアの恋人・ライサンダーという大役に抜擢された。まさか自分が舞台に立つとは思っていなかったため動揺しつつも、そのまま出演することになり、ここからトニーの奮闘が始まる。
三谷作品にはコミカル路線を突き進む人物がしばしば登場するが、トニーはあまりにもシリアスゆえにどこかおかしさが漂ってしまうキャラ。その片鱗が見えたのが台本の読み合わせである。
周囲を威圧する普段の姿からは想像もつかないほど、読み合わせの場面でのトニーはたどたどしく、体を小さくして蚊の鳴くような声でセリフを読み上げる。そのギャップに思わず笑ってしまうが、誰よりも一生懸命なのが伝わるからこそどこか愛おしい。
そして、声の小ささを久部に指摘された際に見せた「や、や、やらないとだめか……?」と涙目を浮かべた表情は、強さと弱さが同居したトニーという人物の濃いキャラクター性を決定づけた瞬間でもあった。この場面でギャップ萌えにやられてしまったという女性視聴者は多いはず。強そうな男が弱い部分を見せる瞬間はどの作品でもグッときてしまうものではないだろうか。
全体的に派手なキャラクターが多い中で、トニーはその逆をいく人物であり、市原さんは非常にうまく演じている。苦手とする読み合わせ中、久部から用心棒に駆り出されて食い気味に喜んだ姿もそうだが、ひたすらに真面目だからこそギャグになる。この絶妙なさじ加減は、素晴らしいの一言だ。
一方、やはりシリアスな場面で見せる色気もたまらない。顕著に現れたのが、久部のかつての劇団「天上天下」とのシーンで見せたひとコマだった。天上天下の現主宰・黒澤(小澤雄太さん)にライサンダー役対決を焚き付けられたトニーは、売られたケンカを買うように、それまでの不器用な読み合わせが嘘のような感情豊かな演技を披露する。
「心は一つ……ベッドも一つ……胸は二つでも愛の誠は一つ」という覚えたてのセリフを口にするトニーは、ケンカ腰の鋭い視線から柔らかな愛の表情へ。低く威嚇する声は憂いを帯びた甘い声へと変わっていき、そこにいた劇団員たちはみな一様に心を鷲掴みされてしまう。
きっとほとんどの視聴者も彼らと同じようにトニーを見ていただろう。もともと色気を含む市原さんの声が、穏やかなトーンになることで一段と色っぽくなるのだから驚いてしまう。
かくして一番のネックと思われていたトニーは、劇団に欠かせない役者の一人となる。そんなトニーを見て目を輝かせた久部との対比演出にもグッとくるものがあった。内に情熱を宿しながらも台本通りに動ける、その従順さと熱さは彼にとって思わず微笑んでしまうほどの理想の役者像だったのだろう。


