数万円から数十万円の値段がつくこともある「レトロゲーム」の世界。そんなソフトがズラリと揃う『ハードオフTOKYOラボ吉祥寺店』の店長にして、自身も大のゲームコレクターである大竹剛氏が、毎回1本のソフトを語るこの連載。今回、ショーケースに並ぶソフトの中から取り上げるのは——?
■『ファイナルファイト』はファミコンにも移植されていた!?
ハードオフ大竹店長の「レトロゲームちょっといい話」第20回
『ハードオフTOKYOラボ吉祥寺店』の店長、大竹剛です。今回ピックアップするのは、カプコンのファミコン用ソフト『マイティファイナルファイト』(1993年)。大ヒットした1989年のアーケードゲーム『ファイナルファイト』をベースに、アレンジを加えたファミコン版です。ですが、本作はファミコン末期の発売だったこともあり、あまり売れなかったんじゃないかと思います。
すでに1990年には、スーパーファミコンで『ファイナルファイト』の移植版が出ていて、メーカー発表によると148万本も売れたんだとか。1993年という時期に、あえてファミコンの『マイティファイナルファイト』を買うのは、シリーズのコアなファンだけだったかもしれません。……ちなみに私は買いました(笑)。
現在、当店では、箱と取扱説明書の揃った完品を2万2000円(税込)で販売しています。ちなみに、スーパーファミコンの『ファイナルファイト』の完品には、7700円(税込)の値札が付いてます。
■くにおくんに寄せてきた!? デフォルメキャラの格闘アクション
かつて、私はゲームメーカー「テクノスジャパン」でくにおくんのドット絵を描いていて、1992年にはファミコン用対戦格闘ゲーム『熱血格闘伝説』の開発にも携わりました。これはデフォルメしたキャラながら、マーシャルアーツやカンフーといった、格闘スタイルの違いを表現することに力を入れた作品でした。
『熱血格闘伝説』発売の翌年、この『マイティファイナルファイト』が出たわけですが、もう、めちゃくちゃ悔しかったですね!
『ファイナルファイト』のデフォルメバージョンと言ってしまっていいベルトスクロールアクションで、2頭身のコーディー、ガイ、ハガーが、トルネードアッパーやバックドロップなど、本家でおなじみの技をちゃんと繰り出す。これを見て、『ファイナルファイト』が『熱血硬派くにおくん』に寄せてきたみたいに感じたんですよね。「こういうのを私が作りたかったのに……!」って。
当時の移植版ゲームは、アーケード版が理想の形なんだけど、家庭用ハードでは同じようには表現できないから、なんとか近づけようとがんばる流れが一般的だったと思います。
私個人としても、ユーザーの立場でも開発者の視点でも、アーケード作品のファミコンナイズには抵抗があって、できるだけ原作のままがいいという考えでした。もともとアーケードゲームをそのまま家でも遊びたくて、ファミコンを買ったようなところがありますから。
なのに、『マイティファイナルファイト』は、その逆をやってきた。キャラがデフォルメされている以外にも、2人同時プレイもできなかったし、ファミコンの制約で敵キャラは同時に2体しか出てこなかったりもしたけれど、プレイするととても面白かった。だから、いろんな意味で悔しかったんです。
振り返ると、『スプラッターハウス わんぱくグラフィティ』(ナムコ/1989年)のように、ファミコンの性能やユーザー層に合わせて、原作のアーケード版からガラッと作り替えているタイトルはほかにもあります。発売された当初は、「こんなの『スプラッターハウス』じゃない!」と思った人が私以外にもたくさんいたはずですが、あとになってすごく評価されています。
ファミコンで表現するための工夫として、こっちの方向性もアリだったんですよね。


