■憎しみと孤独を抱えた最強の男『シャーマンキング』ハオ
最後は、1998年に連載開始された武井宏之さんの漫画『シャーマンキング』を振り返りたい。500年に一度、全知全能の王・シャーマンキングを決める戦い「シャーマンファイト」に挑む者達を描いた本作。その中で絶対的な強さを誇っていたのが、主人公・麻倉葉の双子の兄・ハオである。
その正体は、麻倉家の始祖である1000年前の大陰陽師・麻倉葉王。彼の冷酷で独裁的な態度の背景には、幼少期に母を殺されたことで芽生えた人類への憎しみと孤独があった。
母を失ったハオ(当時は麻葉童子)は、友人となった鬼の乙破千代から鬼の力をもらった後、ある陰陽師に拾われ頭角を現す。しかし心は閉ざされたままで、信頼できるのは猫のマタムネだけだった。やがてシャーマンファイトの存在を知ると、人類を滅ぼしシャーマンの世界を作るという野望のため、転生を繰り返していく。
パッチ族に転生し、ねこまたとなったマタムネと当時の麻倉家当主・葉賢に倒されることもあった。それでもハオは諦めず、麻倉家の血脈に転生し弟・葉の前に立ちはだかる。そして幾度の転生で高めた圧倒的な力を示し、ついに王となった。
だが葉は人類を滅しようとする彼を倒すのではなく、その孤独に寄り添って痛みを受け止めようとした。主人公が敵を倒す流れが多い少年漫画の世界で、敵を救うという異例の展開である。
最終局面、魂の還る場所であるグレートスピリッツで葉と対峙するハオ。するとそこに、これまで彼が関わってきた人々を乗せた列車が現われた。その中には、母・麻ノ葉の姿も…。
求め続けた愛する母に叱咤されたことで、ハオは1000年の孤独から解放される。同時に人類への憎しみも消え、葉を見守る側へと変化するのだった。
打ち切りにより、本編が夢オチという想像の斜め上を行くラストを迎えた『シャーマンキング』。その後の完結編で描かれたこのエピソードは、文句なしの美しい結末だった。
90年代の名作漫画に登場した、ロン毛のイケメン敵キャラ達。彼らはその美しさで読者を魅了する一方、危うさや孤独感を秘めていることも多く、強烈な存在感を放つ。主人公との因縁や、時折見せる優しさや愛もまた、彼らの魅力を引き立たせている。


