■恐怖にさらされた人間のリアルすぎる変容…『新造人間キャシャーン』

 最後は1973年に放送されたSFヒーローアクション『新造人間キャシャーン』。公害処理用ロボット・BK-1は落雷とともに自我に目覚め、ブライキング・ボスを名乗って戦闘ロボットを量産。ロボットの帝国「アンドロ軍団」を作り上げ、世界を支配する。

 ロボット工学の第一人者である東博士の息子・鉄也は、機械と人間の融合体である「新造人間」キャシャーンとなり、幼なじみの少女・ルナやロボット犬のフレンダーとともにアンドロ軍団に立ち向かう物語である。

 富野氏は本作の全35話中8話の演出を担当。中でも第19話「恐怖のピエロボット」の回は、アニメとは思えない残酷さが詰まったエピソードだった。

 快進撃を続けるアンドロ軍団を率いるブライキング・ボスは、「ピエロボット」という秘密兵器をひそかに送り込む。おどけた動きをするピエロボットに子どもたちは大喜び。当初はキャシャーンたちも、アンドロ軍団のものではないと思っていた。

 やがて戦いで傷ついた大人や兵士たちも笑顔を見せるようになるが、次の瞬間ピエロボットが大爆発。その威力は凄まじく、熱風で車が溶け、建物が崩れ、悲鳴だけを残して人々が灰のように消えるというショッキングな展開を迎えるのである。

 ピエロボットがもたらした容赦ない破壊と恐怖は、地域の大統領が降伏を考えたほどだった。

 この他にも、第21話「ロボット・ハイジャック」は印象的な富野氏の演出回。キャシャーンに救われた市民が搭乗した飛行機が、アンドロ軍団にハイジャックされる。同乗していたルナは、乗客の命を盾にキャシャーンの居場所を教えるよう迫られるのである。

 その後、死者も出て爆弾ロボットが設置されるという絶望的な状況になると、当初は協力を惜しまないと言っていた乗客たちも手のひらを返してルナを責め立てる。人間の弱さと恐怖を生々しく描いた、見ているほうが息苦しくなるような演出が光った。また70年代の不安定な世相をアニメに取り入れる大胆さには今さらながら驚かされる。


 富野氏の演出回は「純粋なだけではない子どもの一面」「報われない親の愛」「恐怖に折れる人間の弱さ」などを容赦なく描き、その残酷さを隠さずに表現していた。子どもの頃は単純にショックを受けて悲しむだけだったが、大人になってから改めて見返すと、その深い苦みが多少は理解できるようになった気がする。

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