■二面性を巧みに表現した『鎌倉殿の13人』源頼朝役
“ダークな大泉洋”といえば、やはり外せないのが大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の源頼朝役だろう。
お調子者でどこか頼りない部分もあるが、憎めない人たらし。『鎌倉殿の13人』における頼朝は、普段の大泉さんのイメージに似通った要素を数多く持ち合わせている。しかしそれと同じくらい、冷徹で腹黒い、ダークな面も内に秘めていた。
「頼朝嫌い」がトレンド入りした、第15話を覚えている人も多いだろう。反頼朝勢力の台頭に対し、頼朝は佐藤浩市さん演じる上総広常のおかげもあって、抑え込みに成功する。常人ならば安堵し、広常に感謝したり褒美を与えたりするところ。しかし頼朝は違った。
頼朝はなんと、広常を反逆者として斬り捨て、反頼朝勢力への見せしめとする非道な計略をとった。広常が有能で頼れる存在だからこそ、あえて“使い捨ての駒”として切り捨てたのだ。裏切られて混乱した広常が必死で助けを求めても、頼朝は応じない。
この時、頼朝が見せた突き放すような表情には、思わずゾクリとさせられた。かつて広常に「そなたがいるから 今のわしがおる」と笑顔を向けたこともあるというのに……。人としての尊敬や恩義すら、頼朝の中ではある種の道具にすぎないことがうかがえるエピソードだ。
優しさと腹黒さを合わせ持つ頼朝。しかし、“二面性がある”という言葉だけでは、大泉さんが演じた頼朝の人間性は言い表せないように感じられる。善い面と悪い面があるのではなく、いついかなるときでも頼朝は頼朝。だからこそ憎み切れず、あれだけ視聴者に嫌われていたにもかかわらず、頼朝の退場間際には「頼朝ロス」の声も聞かれたのではないだろうか。
天性のトーク力であらゆる場所で存在感を示し、コミカルな印象を残している大泉さん。しかし、そんな彼が演じる「ダークな役柄」は、その激しすぎるギャップで見る者を惹きつける。今回挙げた作品は、大泉さんの新たな一面を発見する、絶好の入り口となるのではないだろうか。