現実の歴史において軍を率いて戦った武将や将軍の中には、「独眼竜」伊達政宗や「砂漠の狐」エルヴィン・ロンメルのように、その強さや勇猛さを称えて「異名」や「二つ名」で呼ばれることがある。
リアルな戦場を描く『ガンダム』シリーズにおいてもそれは同様で、有名なところでは赤いザクに乗って大きな戦果を挙げた「赤い彗星」シャア・アズナブルや、白いガンダムで圧倒的な強さを誇った「連邦の白い悪魔」ことアムロ・レイなどが挙げられる。
そこで今回は、『ガンダム』シリーズの原点である『機動戦士ガンダム』の舞台となった一年戦争で活躍したエースたちの中で、個性的な異名で呼ばれるパイロットたちを振り返ってみたい。
■ソロモンの悪夢
一年戦争の3年後を描いたOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場したアナベル・ガトーは、一年戦争時に「ソロモンの悪夢」の異名で恐れられたジオン軍人だ。
ガトー自身は撃墜数100機超えのトップエースというわけではなく、書籍『機動戦士ガンダム 公式百科事典』(講談社)の記述によれば撃墜数80機程度だったと言われている。
それでも異名がつくほどの存在として知られるのは、まさに「宇宙要塞ソロモン」を巡る戦いに由来する。この戦いにおいてジオン側の敗北が決定的になり、残存戦力は最終防衛ラインであるア・バオア・クーまで撤退する中、ガトーはパーソナルカラーに塗られたリック・ドムでしんがりを務めた。
そして撤退するジオン軍に追撃をかけようとした地球連邦軍の艦隊は、ガトーの獅子奮迅の活躍によって甚大な損害を受けた。連邦は勝利の余勢から一転、まさに「悪夢」を味わうこととなり、連邦軍士官学校の現代戦史の教科書にもガトーの名が記されたほどのインパクトを残した。
■真紅の稲妻
初代『機動戦士ガンダム』に登場したモビルスーツに、試作機や個人専用機が設定されたメカニックデザイン企画「MSV(モビルスーツバリエーション)」。そこから真紅にカラーリングされた「ザクII」が生まれ、そのパイロットが「真紅の稲妻」の異名をとる「ジョニー・ライデン」である。
「赤い彗星」とパーソナルカラーが被っているため、ゲームなどではジョニーとシャアが間違えられる場面も描かれている。しかしシャアの専用機はサーモンピンクで、ジョニーの機体はより深みのある赤のため、ファンであれば違いは一目瞭然だろう。
ジョニーは、一年戦争の序盤の戦場であるルウム戦役でザクIIに乗り、最大速度で艦隊を斜めに突っ切るという大胆な一撃離脱戦法を披露。戦艦3隻を撃沈させるという功績が認められ、真紅に塗られたザクに乗るようになる。
バンダイホビーサイトにあるエースパイロット紹介ページ「エース・パイロットログ」では、この機体カラーとジョニーが得意にしていた高速一撃離脱戦法を合わせて、「真紅の稲妻」と呼ばれるようになったことが記されている。
■ソロモンの白狼
ジョニー・ライデンと同じく、メカニックデザイン企画「MSV」で設定された白を基調にしたパーソナルカラーの専用ザクに乗るエースパイロット、シン・マツナガ。彼には「ソロモンの白狼」という二つ名がある。
虎哉孝征氏によるコミック『機動戦士ガンダム MSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』(KADOKAWA)によればシン・マツナガは、宇宙攻撃軍総司令官でありソロモン要塞に駐留していたドズル・ザビと幼なじみの関係。シンはドズルのために家族の反対を押し切って軍に入隊したという。
『虹霓のシン・マツナガ』でシンは、一年戦争のブリティッシュ作戦やルウム戦役で活躍し、彼の従軍を知ったドズルから直接「気高さと恐怖を合わせ持つ虹霓の白狼になれ」と言われ、のちにソロモン要塞の守備隊長となる。
こうして「ソロモンの白狼」と呼ばれるようになったシンだが、肝心のソロモン要塞攻防戦には参戦していない。このときシンは、ドズルからデギン公王へのソロモン増援要請の密命を託されて要塞を離れており、ソロモンの陥落やドズルの死を知ったシンは一人で号泣するのである。


