■絶大な人気を誇る悪役を熱演『るろうに剣心』藤原竜也
和月伸宏さん原作の名作漫画『るろうに剣心 ー明治剣客浪漫譚ー』を実写化した、映画『るろうに剣心』シリーズ。ストーリーや設定に多少の変更はあるものの、2012年から2021年にかけて5作品が制作され、いずれも大ヒットを記録している。
シリーズにおいて一つの大きな山場となるのが「京都編」である。ここで主人公・緋村剣心(佐藤健さん)の前に立ちはだかる最強の敵こそが、志々雄真実だ。映画では、2014年公開の『京都大火編 / 伝説の最期編』の2部作で死闘が描かれている。
志々雄は元長州派維新志士で、高い実力と頭の良さ、さらには人々を惹きつけるカリスマ的な統率力を誇る剣客だ。しかし冷酷な野心家としての一面を危険視され、その力を恐れた同志に裏切られてしまう。斬られたうえ、火で焼かれて大やけどを負いながらも奇跡的に生き延びた彼は、全身を包帯に覆われた凄惨な姿となり、明治政府への憎しみを燃え上がらせていく。
この難役を実写で演じたのが、藤原竜也さんだ。志々雄の実写化は困難とさえ言われていたが、藤原さんは独特のセリフ回しや感情表現を見事に表現。舞台経験も豊富な彼だからこそ、志々雄が持つ人を惹きつける危うい魅力を引き出せたと言っても過言ではないだろう。『カイジ』シリーズなどで見せたパワフルで情熱的な演技とはまた違い、表情がほぼ見えない中、低く冷たい声、鋭い視線、体の動きだけで、志々雄の内なる闘志を表現していた。
ちなみに、衣装は石膏のような質感の全身スーツであり、火傷の特殊メイクと合わせると、準備には長時間を要したという。藤原さん自身も「もう暑いし、耳は聞こえないし、物は食べられないし、トイレにも行けない」と、当時の苦労を明かしていた。
そして最大の名場面は、『伝説の最期編』のクライマックスに訪れる。全長120メートルにも及ぶ巨大戦艦「煉獄」で繰り広げられる、志々雄VS剣心・斎藤一・相楽左之助・四乃森蒼紫の激闘。
志々雄は活動限界である15分を超え、声も絶え絶えになりながら、なおも圧倒的な強さを見せつける。藤原さんが、この過酷な衣装のまま極限の状態でこの殺陣をやりきったことが驚異的だ。
常軌を逸した悪役は、実写化が難しい一方、作品に深みを持たせる重要な役割を担っている。今回紹介したほかにも、数々の名優が個性的な悪役を演じてきたが、原作のイメージを大事にしつつ、キャラクターを再現する作業は非常に大変だっただろう。
だが、彼らがキャラクターの突き抜けた個性や猟奇性を見事に怪演したことで、主人公の強さや物語の展開が輝きを増したことは間違いない。