
アニメや漫画の世界には、しばしば強烈な存在感を放つ敵キャラクターが登場する。派手な見た目や常軌を逸した性格など、彼らのインパクトは時に主人公を凌駕するほどだ。
だが、それはアニメや漫画の中だからこそ自然に見えるのであり、実写化となると原作のイメージを損なわずに、とても尋常とは言いがたい彼らの性質を表現しなくてはならない。これは、俳優にとって至難の業だと言えるだろう。
そこで今回は、実写化作品で個性際立つ悪役に挑んだ俳優たちを振り返りたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■不気味さと妖艶さで人気を博した『あずみ』オダギリジョー
小山ゆうさんの同名漫画を、北村龍平監督が実写映画化した、2003年公開の『あずみ』。本作で強烈な存在感を放っていたのが、真田幸村によって送りこまれた最強の刺客の最上美女丸である。
美女丸は、女性と見紛うような美しい容姿をしており、言葉遣いや立ち振る舞いも女性的な中性的なキャラクターだ。その一方で剣術の腕はずば抜けており、「受け太刀不要」という理由から鍔のない刀を使う。さらに、相手をじわじわと苦しめる禍々しい戦法を好み、その猟奇性と妖艶な外見のギャップが彼の魅力でもある。
そんな美女丸を演じたのが、1999年にドラマデビューを飾ったオダギリジョーさんだ。
オダギリさんが演じた美女丸は、ロングヘアに白塗り、真っ赤なアイメイクと、原作とはやや異なる外見をしているが、その美しさと妖艶さは原作さながら。女性的な言葉遣いも驚くほど違和感がなく、時折見せるギラっとした鋭いまなざしが、たまらなく不気味で美しい。
戦闘時に見せる猟奇性も、美女丸を語る上で欠かせない要素だ。オダギリさんは、すすき野原でひゅうが(小橋賢児さん)を相手に見せた華麗な殺陣、弱っていく相手を前にして興奮を隠しきれない表情などで、美女丸の持つ底知れない恐ろしさを見事に表現してみせた。
最大の見せ場となるクライマックスシーンでは、敵陣に一人乗り込み、次々と斬り伏せるあずみを見て興奮がピークに達する。「すごいよあの子!」と、目を輝かせてぴょんぴょん飛び跳ねる姿はあまりにも常軌を逸しており、美女丸というキャラクターの特徴をしっかりと捉えていた。
その後、感情が抑えきれなくなった美女丸は自身も乱闘に参加し、味方ですら次々と斬り捨て、あずみと対峙。目を見開き、奇声をあげながら舞い踊るように刀を振るうも、最期は首を斬られて命を落とす。
しかし、その表情からは死への恐怖よりも楽しさが勝っているようにも見え、最後の瞬間まで美女丸らしさが全面に出ていたと言えるだろう。オダギリさんは本作で「日本アカデミー賞 新人俳優賞」を受賞したが、それも納得のクオリティだ。
■残虐で非道な尸良になりきった『無限の住人』市原隼人
2017年に公開された『無限の住人』は、沙村広明さん原作の同名漫画を三池崇史監督が実写化した映画だ。
物語は、八百比丘尼によって不死身にされた隻眼の剣士・万次(木村拓哉さん)が、殺された両親の復讐を誓う少女・浅野凜(杉咲花さん)の用心棒となり、戦いに身を投じていくというもの。
万次の前に次から次へと現われる敵の一人が、尸良である。尸良は無骸流に属する剣士で、ひと言で表現するならば外道中の外道だ。
10代から殺人を生業にしてきた生粋のサディストであり、人を苦しめるために作られたような異形の愛刀「ホトソギ」を使い、特に女性をいたぶり四肢を切るという残虐非道な殺しを好む。
あまりにも恐ろしい男ではあるが、一方で、彼の持つ常軌を逸した生きざまに惹かれる原作ファンも少なくない。そんな危険すぎる魅力を放つ尸良を実写で表現したのが、市原隼人さんだった。
登場初期、黒髪だった尸良は、残忍さの欠片は見せつつも普通に会話のできる男だった。だが、一度は手を組んだ万次に腕を切り落とされたことで敵対し、その後、腕に蟹の爪のような武器を装着し、白髪になった姿で再登場する。
この変貌を機に、尸良の本来の姿が完全に解き放たれる。市原さんは、猟奇性が引き出され、ギリギリの命の攻防を楽しむ尸良の異様さを、凄みのあるセリフ回しで徹底的に演じ切った。喜びを感じるかのように人を斬り、声を荒げるその様は、ともすれば原作よりも熱量のある尸良像を作り上げていたようにも見える。
市原さん自身もインタビューで「間違いなくこれまで演じたことのない最恐の役でした」と語っており、同時に「ここまでやっていいのかなと演じていて気持ちよかった」と振り返っている。
普段、悪役を演じる機会が少ない市原さんだからこそ、尸良役で見せた思い切ったアプローチが役にハマったのかもしれない。