
大林宣彦監督の『転校生』(1982年)を筆頭に、「登場人物の中身の入れ替わり」をテーマにした作品は数多く存在する。
このジャンルの最大の見どころのひとつが、俳優が見せる“中身の変化”だろう。ヒーローがヒロインに、あるいは親子など……キャラクター同士がひょんなことから入れ替わった際、セリフ回しや声のトーン、さらには細かい仕草までが変わり、観る者に「本当に入れ替わったのでは?」と感じさせるほどの説得力が求められる。
今回はその中でも、女優たちにスポットを当て、忘れがたい名演技を振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■女性刑事と入れ替わった“容疑者”『天国と地獄 〜サイコな2人〜』綾瀬はるか
2021年放送の『天国と地獄 〜サイコな2人〜』で、綾瀬はるかさんは警視庁捜査一課の刑事・望月彩子を演じた。正義感が強すぎるあまり上司や同僚と衝突しがちな熱血刑事である彩子は、追っていた連続殺人事件の容疑者・日高陽斗(高橋一生さん)とともに歩道橋から転落したことで、心と体が入れ替わってしまう。
とりわけ衝撃的なのは、病院で目覚めた直後のシーンだ。“彩子の姿となった日高”を演じる綾瀬さんは、“入れ替わり”を瞬時に理解すると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。この表情が猟奇的な人物かのような不気味さをまとっており、非常に怖いのだ。
さらに、日高の癖である耳たぶを触る仕草や、落ち着いた声色などといった細部の演技から、外見は彩子でありながら中身はまったくの別人であることが伝わってくる。
そして、入れ替わりの相手である“日高の姿となった彩子”の前に現れると、動揺する彼女を壁ドンで追い詰め「小賢しいんだよ! いちいち!」と一喝。その圧倒的な迫力は、刑事と容疑者の立場が、完全に逆転してしまったことを彩子本人と視聴者に知らしめるものであった。
当時、綾瀬さんは本作の役作りについて「高橋さんが演じるならこう、というのを教えて頂いたりしています」と語り、互いの演技を擦り合わせることで完成度を高めていったと明かしている。
序盤の比較的コミカルな展開から、終盤の事件の真相に迫るシリアスなパートまで、綾瀬さんは役柄の変化を見事に表現し、視聴者に「中身は日高だ」と信じ込ませる説得力を放っていた。
■女子高生の娘と入れ替わった“父親”『パパとムスメの7日間』新垣結衣
2007年に放送された王道の入れ替わりコメディ『パパとムスメの7日間』。物語は、“伝説の桃”を食べた父娘が列車事故をきっかけに入れ替わるところから始まる。
中年サラリーマンの川原父・恭一郎(舘ひろしさん)と、女子高生の娘・川原小梅(新垣結衣さん)。年齢も立場もまるで異なる2人の“交換生活”が、コミカルに描かれた。
特に注目されたのは、当時19歳の新垣結衣さんが挑んだ「中身は47歳サラリーマンの女子高生」という難役である。
腕を組んで足を大きく広げて座る、会話の端々に説教を差し挟む、ため息混じりに頭を抱えるなど、そのひとつひとつの仕草が“おじさん”そのものであり、新垣さんの清楚なビジュアルとのギャップが視聴者の笑いを誘った。
作中では、“父の姿になった小梅”が会社で自身(父)の首がかかるプロジェクトに挑む一方、“娘の姿になった恭一郎”は学園生活に大苦戦。
友達に説教をして浮いたり、テストで赤点を取りかけたりと、トラブル続きだ。中でも、三者面談に呼ばれ、長年のサラリーマン生活で培った土下座で「寛大なお裁きを!」と懇願し、留年を免れるシーンは名場面のひとつである。
そして、小梅に押し切られて、彼女が想いを寄せる大杉先輩(加藤シゲアキさん)との恋愛に臨む場面では、“娘の願いを叶えたい”という想いと、“父としての葛藤”が交錯し、コメディでありながら不思議な感動を生んだ。