
7月18日に公開されたアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の興行収入が、314億を突破したことが明かされた。国内歴代興行収入1位の『鬼滅の刃 無限列車編』407億に早くも追いつきそうなこの数字に、ファンからは記録更新への期待の声が上がっている。
今回の映画で、一つの山場となるのが「童磨VS胡蝶しのぶ戦」である。上弦の弐という強敵に命をかけて戦いを挑むしのぶの姿は視聴者の心を震わせ、彼女の生き様に涙する人が続出した。
そんなしのぶの声を担当しているのが、声優の早見沙織さんだ。透明感の中に力強さが宿る早見さんの美しい声は、これ以上ないほどにしのぶのキャラクター性とマッチしており、物語に深みをもたらしている。
そして早見さんは、『鬼滅の刃』以外の多くの作品でもまた、素晴らしい演技を見せている。今回は、そんな早見さんの演技力が光ったキャラを振り返ってみよう。
■令和に生まれ変わったオードリー・ヘプバーン『ローマの休日』
2007年に『桃華月憚』の川壁桃花役でアニメ声優デビューを果たした早見さん。以来、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』や『魔法つかいプリキュア!』をはじめとする数々のヒットアニメに出演し、2015年には歌手デビューするなどマルチに活躍している。
そんな早見さんが声優を目指すきっかけになった作品が、小学生の頃に見たオードリー・ヘプバーン出演の映画『ローマの休日』なのだそうだ。池田昌子さんが演じるアン王女の吹き替えを初めて耳にした早見さんは声優という職業に興味を持ち、中学生で養成所に入っている。
そして2022年5月、日本テレビ系『金曜ロードショー』で『ローマの休日』のデジタルリマスター版が放送されることになり、早見さんは自身の原点とも言えるアン王女役の新吹替声優に起用された。
後のインタビューで、オファーを受けたときのことを「心拍数が上がって手に汗握った」と語っていた早見さんは、作中で持ち前の透明感溢れる声を余すところなく発揮。その声には王女としての気品と自由を求める一人の女性としての葛藤が調和され、ヘプバーンの美しさを際立たせていた。
さらに、街で束の間の自由を満喫する場面では子どものようにはしゃぐ可愛らしい声を披露し、別れのシーンでは隠し切れない切なさと哀愁が丁寧に表現されている。本人曰く、凛々しい王女の時とちょっぴりお転婆な本来の姿の切り替えは、どれくらい変えるかで苦労したそう。だが、柔らかく弾むその声は非常に自然で、ヘプバーンの表情と絶妙に重なり合っていた。
憧れの作品でヘプバーンを演じるのは多大なプレッシャーだっただろうが、早見さんは色あせることない名作に、新しい息吹を吹き込んでくれたと言えるだろう。
■天然×最強キャラがハマりすぎ『SPY×FAMILY』
国内外問わず爆発的なヒットとなった『SPY×FAMILY』でも、早見さんは強い印象を残している。演じた役柄は、ヨル・フォージャー。表向きは市役所の事務員として、裏ではいばら姫というコードネームの殺し屋として働くという二つの顔を持つ女性だ。
性格はとても優しく素直で愛情深いが、かなりの天然でおっちょこちょいでもある。ただ、その素直さゆえにロイドやアーニャの秘密について全く疑うことがないので、ある意味素晴らしい性格と言える。
作中でヨルは、弟・ユーリに見せる姉らしい姿やロイドに対しての恋心に困惑する乙女な姿、殺し屋として暗躍する姿など、様々な表情を見せていく。天然で浮世離れした性格というベース、控えめな感情表現というヨルならではの個性を残しながら、こういった場面ごとに感情の違いを演じ分けるのは大変なことだ。
そこで早見さんは、演じるにあたってあまり考えすぎないことを大切にしたのだとか。確かにヨルは理屈よりも直感で動くタイプでもある。
「豪華客船編」では、敵との戦いの中で「自分はなんのために殺し屋をしているのか」と葛藤する姿が描かれた。幼い弟を養うために足を踏み入れた殺し屋稼業も弟の成長とともに存在意義が揺らぎ、今では愛する家族もいるのだ。
早見さんは、そんなヨルが大切な人たちを思い浮かべて揺れ動く感情を繊細なタッチで演じ、その後大切な人たちを守るために戦うと決意する様を力強い声で表現している。そこには、新たな決意のもと戦いに身を投じるたくましいヨルの姿があった。