
1980年代といえば、テレビ、アニメ、ゲーム、おもちゃなど、数々のブームが巻き起こったアツい時代。そんな熱狂の真っ只中を生きたのが、昭和47年(1972年)生まれの芸人・土田晃之。“華の47年組”の一人として、著書『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』を上梓した彼が、子どもの頃に堪能した「昭和カルチャー」を独自の視点で語り尽くします!
■『タッチ』がきっかけで野球部に入部
僕らが中学生の頃に流行ったラブコメっていうと『タッチ』。ただ当時は『タッチ』を“ラブコメ”と思って読んでなかったですよね。なにせ連載してたのが「少年サンデー」ですから。少年漫画としか思ってなかったです。
僕らより前の世代の人気漫画といえば『巨人の星』とか『あしたのジョー』とか、いわゆる“スポコン漫画”が流行っていて、僕ら世代になると、コミカルな漫画が多くなって。
小学校のときに人気だった『Dr.スランプ』『キン肉マン』はどっちもコメディだったし。その中に、コミカル系じゃない『キャプテン翼』『北斗の拳』『よろしくメカドック』『ウイングマン』とか。『ウイングマン』はちょっとラブコメ要素もあったけど。
『タッチ』は、僕らの中学入学とほぼ同時にアニメが始まって人気になって。僕が中1で野球部に入ったのも『タッチ』の影響です。小学校ではサッカーやってたから中学もサッカー部に入ろうと思ったけど、『タッチ』観てたら「野球部もいいな」と思うようになって。
それで希望に満ちあふれて野球部に入ったけど、すぐケガして部活休んでる間におニャン子にハマって『夕ニャン』観たさに野球部を辞めるっていう。『タッチ』の達也みたいにはなれませんでした。
あだち充作品は『みゆき』も小学校のときにアニメを観て、中学のときにコミックス買いました。僕があだち充作品が好きなのは、ストーリーがいいから。『タッチ』のあとも『ラフ』っていう水泳部漫画、『H2』『クロスゲーム』っていう野球漫画、まったく青春モノとは関係ない『虹色とうがらし』っていう漫画があったり。
僕は50歳を越えているのに、いま読んでも面白い。あだち先生が現在連載してる『MIX』も全然古く感じない。『MIX』で『タッチ』から約30年後の同じ学校の野球部を描くって、どんだけすごいか。
■「同じ劇団が違う演目をやる」あだち充作品の魅力
いま74歳ですからね、あだち先生は。70歳過ぎて青春モノ描いてるんですから。若いときに青春モノとか若い子向けの作品描けるのは当たり前で。尾崎豊さんは10代のときに作った曲だから若者に共感されたわけで、60になって『15の夜』みたいな歌を書けるか? って話ですよ。それができちゃってるのが、あだち充っていう漫画家だと思います。
以前、あだち先生とお会いしたときに言ってたのが、 「『全部主人公が同じ絵だ』って言われる」って。でもあだち先生自身も「そうなんだ」と。
「要は、同じ劇団が毎回違う演目をやってる感じなんですよ」
それ聞いて「なるほどなぁ」と思って。確かにテイストは近いものがあるけど、内容は全然違う。
普通は『タッチ』みたいな爆発的ヒットがあると、それを超えられなかったりして、結局、続編を描くとかになるけど、あだちさんってそれがない。“野球部で青春”っていう設定は同じにして、内容を変えていく。普通は避けますよ。「前の作品と似ちゃってるよね」って言われるから。ところが似てないんですよね。『タッチ』と『H2』はまったく別物。全然似てない。
それがあだち充先生のすごいところ。化け物的なセンスですよ。「何個、青春持ってんの?」って。