■野球を描かずに締める『タッチ』の粋な最終回
『タッチ』の最終回がまた見事。野球をまったくしないんです。達也が街を歩いてみんなに会う話で、南ちゃんちの喫茶店「南風」に行ったら、ライバルだった須見工の新田が来てて、「お前、親父の後継ぐんだろ?」みたいな、なんでもない話してる。
「あれ? 甲子園どうなったんだ!?」
地区予選を勝ち抜いて甲子園出場が決まったのに、甲子園で試合してるシーンが1個もない。
「最終話これ?」
と思ったら、最後に達也の家の棚の上に「甲子園優勝」の記念の皿が乗ってる──。これで終わり。地区予選の話だけで、甲子園の話がまったくなくて、最後のシーンの皿を見て、
「あ! 達也、甲子園で優勝したんだ!!」……ってわかる。
オシャレなんですよ。普通の野球漫画なら甲子園大会になって、その後プロ行って、メジャー行って……とかなるけど、そうじゃない。
「甲子園で優勝する投手がこのあとどうなったんだろう?」
「でもきっと達也のことだからプロには行かないんだろうな」
……みたいな。ラストは読者に委ねる。それが『あしたのジョー』のラストみたいに「生きてるのか死んでるのか」ってなると大論争になっちゃうけど、『タッチ』だと読者それぞれが自分なりに“物語”を描いて、きれいに終われる。見事なラストです。
仕事つながりであだち先生から「好きなキャラクターの絵を描きます」って言われて、「柏葉英二郎(野球部監督)」って伝えたんです。達也でも和也でも南ちゃんでもなく。ちょっとしたボケのつもりだったんですけどね。丁寧にちゃんと水性絵の具で、リアルな柏葉英二郎を描いていただきました。あの絵はいまも大事にしまってあります。
【プロフィール】
土田晃之(つちだ てるゆき)
1972年9月1日生まれ、東京都練馬区出身・埼玉県育ちのお笑いタレント、司会者、コメンテーター。太田プロダクション所属。1991年にお笑いコンビ「U-turn」としてデビューし、解散後はピン芸人としてバラエティ番組や情報番組で幅広く活躍。ガンダムやサッカー、家電など多彩な知識を持ち、親しみやすいトークで人気を集めている。『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』が、2025年8月20日より双葉社から発売。