
8月15日に『火垂るの墓』が放送され、8月22日には『崖の上のポニョ』、8月29日には『もののけ姫』の放送が予定されている『金曜ロードショー』。公開から月日を経ても、今もなおワクワクさせてくれるスタジオジブリの名作たちが目白押しのラインナップだ。
大人から子どもまで世代を超えて楽しめるジブリ作品だが、知られざるトリビアが多いことでも有名だ。そこで今回は、ジブリ作品のトリビアをご紹介しよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■主人公はサツキとメイじゃなかった!?『となりのトトロ』
1988年公開の『となりのトトロ』は、スタジオジブリのシンボルマークにも使用されており、まさに代表作の1つだと言えるだろう。
主人公である幼い姉妹のサツキとメイが、不思議ないきもの・トトロと出会い繰り広げられる、ちょっと不思議で心温まる物語の本作。しかし当初、“主人公が1人だった”という事実はあまり知られていないかもしれない。
当時の劇場版のポスターには、トトロと一緒にバス停で傘を持つ少女の姿がある。サツキと似た服装をしているが、顔はどこかメイのような幼さがあり、おさげ髪をしている。この「謎の少女」はいったい誰なのだろうか。
本作で制作デスクを務めた木原浩勝氏の著書『増補改訂版 ふたりのトトロー宮崎駿と「となりのトトロ」の時代ー』(講談社文庫)によると、この物語はもともと絵本にしようとして描かれた“小さな話”で「メイという女の子一人しか登場しない物語にするつもりだったらしい」と明かされている。
だが、いざ制作が始まってみると、少女1人の主人公では物語を展開するのが難しいと判断され、そこで宮﨑駿監督が考案したのが「サツキ」という姉を登場させるアイデアだった。
こうして、サツキとメイの姉妹がトトロと出会う物語が誕生するのだが、ポスター制作にあたって、宮﨑監督は新たな葛藤に直面することとなる。
宮﨑監督は初期の“イメージボード”の案を活かしたいと考え、トトロと一緒にバス停に並ぶ少女は1人が良いと考えていた。当初はサツキが1人で立つ案もあったそうだが、そうなるとメイは1人で留守番をしていることになってしまう。幼い妹を1人残し、姉がバス停へ迎えに行くのもどこか違う……と、悩んだのだという。
熟考の末、サツキとメイの特徴を併せ持つ、あの「謎の少女」がトトロと並んで立つポスターが完成した。この少女について木原氏は「一種の合成キャラクターとでもいえばいいだろうか」と表現している。
見る人によってはサツキにもメイにも見える少女。確かに言われるまで何の違和感もなくポスターを見ていたのは、筆者だけではないだろう。
余談だが、制作メンバーだった鈴木敏夫氏は『ジブリの教科書3 となりのトトロ』(文春ジブリ文庫)の中で、別の逸話を明かしている。それは、同時上映だった高畑勲監督の『火垂るの墓』の上映時間が延びそうだと耳にした宮﨑監督が、対抗心から上映時間を延ばすべく「サツキとメイ」の姉妹を主人公にする案を思いついたというのだ。
負けず嫌いで知られる宮﨑監督らしい微笑ましいエピソードであると同時に、サツキがネコバスに乗って迷子のメイを探しに向かうあの感動的なシーンが、こうして生まれたのかと思うと感慨深い。