
恋愛要素のある少年漫画やアニメには、「負けヒロイン」と呼ばれる存在が登場することがある。簡単に言えば、主人公に想いを寄せながらも報われず、メインヒロインになれなかったキャラのこと。しかしその中には、時にメインヒロインを“食って”しまう者も存在する。
「負けヒロイン」であるはずの彼女たちが、なぜメインヒロインたちの存在が霞むほどの人気を獲得したのか。そんな「メインヒロインを食った負けヒロイン」たちの魅力を紐解いていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■健気な姿に思わずキュン…『Re:ゼロから始める異世界生活』レム
「リゼロ」の愛称で親しまれる『Re:ゼロから始める異世界生活』は、長月達平氏のライトノベルを原作とする異世界ファンタジーアニメだ。
そもそも本作は主人公であるナツキ・スバルとハーフエルフの美少女・エミリアとの恋愛模様が大きな見どころだった。儚げでミステリアスな美貌と、それに反して意外と幼い性格のエミリアは、美しさと可愛らしさを兼ね備えており、メインヒロインとして申し分ない。しかし、そこに思わぬ伏兵が現れる。それこそが鬼族の美少女・レムだ。
レムは当初は敵としてスバルを殺したこともあるが、「死に戻り」を繰り返し運命を変えようとする彼に惹かれていく。「スバルくんはレムの英雄なんです」「スバルくんが、いいんです」「スバルくんじゃなきゃ、嫌なんです」とまっすぐな好意を伝え、スバルを心身ともに支える献身的な姿が印象的だ。
可憐で小柄な見た目も相まって、思わず守りたくなる可愛らしさが魅力のレム。その一方で高い身体能力を持ち、戦闘シーンで大活躍するギャップも人気の理由だろう。
世間知らずのエミリアは、時にわがままに映る。必死で戦うスバルをないがしろにしたり、疑ったり、怒ったりするシーンもあるため、それが時に視聴者を苛立たせることもあるようだ。その裏には、長い間氷漬けになって眠っていたせいで精神年齢と見た目の年齢が違うという設定が隠されていたのだが、それが明かされる頃にはレムの人気は揺るぎないものとなっていた。
しかし、そんな矢先、レムは暴食の大罪司教の能力で意識不明となった上、スバル以外の記憶から消えてしまう。その後、セリフもなく、登場シーンもアニメ第3期ではほとんどなかった。こうしたことで「レムロス」が起こり、新シーズン放送のたびにレムの目覚めを心待ちにしているファンも多い。
■最後まで“ヒロイン”だった『ニセコイ』小野寺小咲
古味直志氏による『ニセコイ』は、アニメ化のほか実写映画化もされた人気ラブコメ作品である。 ヤクザの息子・一条楽とギャングの娘・桐崎千棘の「偽の婚約」がやがて「本当の恋」へと変わっていくまでを描いた物語だ。
本作には千棘以外にも複数のヒロインが登場するが、中でも筆頭格だったのが、和菓子屋の娘・小野寺小咲だ。当初楽が思いを寄せていた相手であり、実は彼女のほうも楽のことが好きだった。
小咲はおっとりした恥ずかしがり屋の少女で、楽を一途に想いながらもなかなか一歩を踏み出せない姿がいじらしい。自分より他人を優先しがちな、心優しい性格も魅力的だ。千棘のほうは典型的なツンデレで怒りっぽいところもあったため、余計に小咲の健気さが際立って見える。
さらに、楽が幼少期に「ザクシャ イン ラブ(愛を永遠に)」という言葉とともに結婚の約束をした女の子の存在も大きい。楽はその女の子の名前や顔もおぼろげになっていながらも、彼女のことを想い続けていた。
この女の子が千棘なのか、小咲なのかは長らく不明だったが、最終回直前でついに真実が明かされる。その正体は千棘ではなく、なんと小咲だったのだ。これにより小咲は「実は両想いだった」おまけに「約束の女の子」という最強のカードを持っていることになり、だからこそ楽と千棘が結ばれる展開は波紋を呼んでしまった。
終盤で楽に「私 一条君が好きです」「ずっとずっと 好きでした」と伝え、フラれてしまった小咲。大粒の涙をこぼしながら無理をして笑おうとする場面では、胸がぎゅっと締め付けられた。最後まで「ヒロイン」としての魅力を放ち続けていた小咲の姿は、千棘以上に多くの読者に残り続けているのかもしれない。