■完璧ないい子と思いきや…『化物語』羽川翼

 西尾維新氏によるライトノベルシリーズ『〈物語〉シリーズ』。ファンタジーとアクション、恋愛とさまざまな要素が入り混じるストーリーが繰り広げられる、「西尾維新ワールド」全開の作品である。

 本作は女吸血鬼に魅入られた阿良々木暦と、ある怪異に取りつかれた戦場ヶ原ひたぎの物語が主軸となっている。しかし、物語が進むごとにサブヒロインである羽川翼の存在感が増してくる。

 メインヒロインであるひたぎは、とにかく強烈なキャラ。成績優秀で運動神経も抜群、見た目も美しい完璧な少女だが、性格に少々難ありという最大にして最悪の弱点がある。特に初期のひたぎは毒舌で暴力も振るうし、文房具を凶器にする危険な人間という印象も強い。

 それと対照的に翼は常識人で、品行方正で誰にでも優しい「いい子」だ。顔立ちも整っていて、眼鏡に三つ編みという地味なスタイルでも可愛さを隠しきれていない。複雑な家庭環境にありながら健気に生きている姿も、思わず応援したくなる。

 さらに、実は「羽川翼」というキャラがただの優等生ではなく、闇を抱えている点もキャラクター性に深みを与えていた。日々積もり積もったストレスゆえに、徐々にラスボスのようになっていくことで存在感を強めていったのだ。

 ひたぎはツンデレどころか、ツン9割にも思えてしまう異色の存在。いつも暦のそばで彼を支え、ひそかに彼に想いを寄せていた翼のほうが、「ヒロインっぽい」と思えてしまうこともある。

 翼のほかにも千石撫子、神原駿河、八九寺真宵、忍野忍など魅力的なサブヒロインを何人も生み出している西尾氏。枠にとらわれない独創性が特徴の西尾維新ワールドでは、もはや「メインヒロイン」という概念すら野暮なのかもしれない?

 

 今回紹介してきたような、メインヒロイン並みの人気を誇るサブヒロインは数多い。彼女たちの存在があってこそ、主人公とヒロインが織り成す物語にも深みが加わるのだろう。「負けヒロイン」と呼ぶのも申し訳なくなってくるくらい魅力たっぷりの彼女たちの姿を、ぜひ本編であらためて味わってみてほしい。

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