■俳優の演技にも注目!『僕だけがいない街』

 最後に紹介するのは、2016年1月から3月にかけ、フジテレビ「ノイタミナ」枠で放送された『僕だけがいない街』。三部けい氏による同名漫画が原作となっており、藤原竜也主演の実写映画やNetflixでの実写ドラマ化など、3度も映像化された話題作でもある。

 主人公は、ピザ店のバイトで生計を立てつつ、売れない漫画家として日々を過ごしている藤沼悟。彼は過去に時間が巻き戻る「リバイバル」という現象に悩まされていた。ある日、母親の佐知子の言葉で、18年前に北海道で起きた児童誘拐殺人事件を思い出す悟。そんな中、バイトから帰宅した悟の目の前にあったのは、何者かに殺された母親の死体……。現場から必死に逃げる中で悟がたどり着いたのは、昭和63年の北海道。事件が起こる前の世界にリバイバルした悟は、未来を変えるために事件の真相に迫っていく。

 タイムリープアニメと聞くと、最後まで黒幕がわからない緊張感を想像する人も多いかもしれない。だが、本作は黒幕の正体そのものは想像がしやすく、焦点があてられるのは、2006年と1988年を何度も行き来しながら試行錯誤する悟と仲間たちの成長だ。母だけでなく、18年前の事件の犠牲者・雛月加代の死を回避するため、運命にどう抗い、何を受け入れるのかという選択と覚悟が、ヒューマンドラマとしての見ごたえを確かなものにしている。

 また、本作は2つの時空を行き来するが、10歳の悟と29歳の悟は声優が変わっており、29歳の悟を満島真之介さん、10歳の悟は土屋太鳳さんが演じている。どちらも声優初挑戦となったが、マンガでは吹き出しなどで区切られていた声色がダブルキャストによりしっかり表現されているため、原作だけ楽しんだ人にとっても違いを楽しめるはず。

 児童虐待や冤罪被害というシリアスな展開と終わらない悲劇……。終盤では物語の進展とリンクし、オープニングやエンディングが変わる演出もあったりと、軽快なテンポで最後まで飽きさせない。タイトル「僕だけがいない街」がどう回収されるかも注目して観てほしい。

 

 紹介した作品はどれも、ただ事件を解決するだけでなく、人間の心の闇や成長、そして他者との絆と多くのテーマが描かれている。1クールという短さでも、物語の濃さと余韻は十分。まとまった時間が取れる夏休みこそ、一気見してその世界に浸ってほしい。

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