
いま世間はお盆休み。人によっては帰省や旅行など予定があるかもしれないが、まとまった時間が取れるこの時期こそ、気になるアニメを一気見する絶好のチャンスでもある。
とはいえ、長編シリーズを見ようにも、時間が足りず、結局途中で挫折してしまうかもしれない。そんなときにおすすめなのが、1クール(12~13話)で完結するアニメ、中でも息つく間もない展開で一気に観られる「ミステリーアニメ」である。
短い話数の中に、濃密な謎と人間ドラマが凝縮されており、観始めたら止まらなくなること間違いなし! 今回は、異なるタイプのサスペンス&ミステリーアニメを、具体的な見どころとともに紹介していこう。
■動物?たちがたどり着く驚愕の真相とは…?『オッドタクシー』
まず1本目は、2021年4月から放送されたオリジナルアニメ『オッドタクシー』。夜の東京を舞台とし、一つの事件をきっかけにさまざまな登場人物の思惑が交錯するミステリーアニメだ。
天涯孤独で、他人と深く関わることを避けて生きる主人公・小戸川宏。タクシードライバーを生業とし、乗客や友人との会話を通じてかろうじて自我を保っているが、その姿は動物のセイウチ。オッドタクシーの世界では、アルパカの姿をしたヒロインや、医師のゴリラなど、登場人物が動物という設定になっており、ティザービジュアルが発表された際は、日常系のゆるふわなアニメを想像した人も多かったかもしれない。
しかし物語は、練馬区で発生したという女子高生の行方不明事件を機に大きく動き出す。平凡な毎日を暮らしていたはずの小戸川だが、なぜか事件に関与していると疑われてしまうことに。その後、タクシーでの会話劇を中心に、事情聴取をしに来た警察官、タクシーのドライブレコーダーを押収しようとするヤクザ、マッチングアプリで美人局に遭ってしまった友人とさまざまな事情が浮き彫りになるが、そのすべてが女子高生の事件へとつながっていく。
本作の脚本は、漫画『セトウツミ』の原作者でもある此元和津也氏が手掛けていることもあり、クセの強い面々が繰り広げる、時事ネタも加わった軽快な会話劇も魅力の一つだ。また、キャストにはお笑い芸人のダイアンが漫才コンビ役で登場したり、ラッパーのMETEOR演じるヤノがラップ調で会話したりと、物語の展開だけでなくキャストの演技も注目しながら楽しむことができる。
ラストには、事件の黒幕となった人物とそのトリックに驚愕すること間違いなし。さらに、なぜオッドタクシーの世界では登場人物が動物という設定なのかも明らかになる。すべての伏線が鮮やかに回収される、途中下車禁止の傑作ミステリーだ。
■「スティーブジョブズじゃあるまいし!」ギャグとサスペンスの温度差がすごい『ミギとダリ』
続いての作品は、2023年10月に放送されたアニメ『ミギとダリ』。原作は『坂本ですが?』などで知られる佐野菜見氏による作品で、2017年から2021年まで、マンガ雑誌『ハルタ』にて連載。サスペンスとシュールギャグが融合した異色作で、2023年にこの世を去った佐野氏の遺作でもある。
舞台となるのは、1990年の神戸市北区のニュータウン「オリゴン村」。子どものいない老夫婦・園山夫妻は、養護施設から“秘鳥”という金髪の美少年を養子に迎える。しかし、その正体は「ミギ」と「ダリ」という双子であり、2人は巧妙に入れ替わりながら1人の人物を演じている。双子の目的は、園山家が住むオリゴン村にいるはずの、実母を殺した犯人を探し出し復讐することだった……。
犯人の正体を暴きだすため、幼い頃の母との記憶をたどりながら真相に向かって動き出す2人。作中で流れる不穏なBGMも相まって、物語自体の雰囲気はさながらピカレスクサスペンス。だが、食卓でとんでもない関節の曲げ方で入れ替わったり、自転車の二人乗りでなぜかサドルに半分ずつ座ったり、力を合わせて高速で肩たたきをしたりと、奇妙な行動を巻き起こすミギとダリ。
また、服の好みを尋ねられ、自身が来ている黒のシャツと同じ服が欲しいと言うと、「そんな! スティーブジョブズじゃあるまいし!」と、実在した人物を例に冷静に突っ込む夫妻。他にも、チェリーパイを作る際の工程がわからなくなり思わず「shit!」と盛大に叫ぶなど、所々に織り交ぜられるシュールなギャグも物語のアクセントとなっている。
だが、双子の正体がいつ周囲にバレるのか? 実母殺害の真犯人は誰なのか? というサスペンスとハラハラする要素も見どころで、双子の視点から描かれる復讐の意味、そして彼らが抱える孤独や葛藤も、物語に深みを与えている。
双子の行動が周囲に波紋を広げ、事件の真相に近づくにつれて緊張感が高まっていくさまは、1クールという短い話数ながら強烈な印象を残してくれるはずだ。