■結婚相手は北野に決めていた…!?「愛こそはすべての巻」

 第32話「愛こそはすべての巻」は、普段はいがみ合っている光太郎と北野が典子のために共闘する異色のエピソードである。

 光太郎の会社の重大な取引先の息子・丸閥三角が、典子に一目ぼれをした。光太郎の仕事の関係先ということもあり三角とデートする典子だが、彼の強引な態度に恐怖を感じて帰りたくなってしまっていた。そのとき、典子を救うべく現れたのが、変装した光太郎と北野である。

 普段は敵対している2人が共闘し、典子を救おうとする姿はとても面白い。カップルのフリをして2人を邪魔したり、自転車の2人乗りでタクシーを猛追したりと、コミカルな展開が続く。

 最終的に素性がばれ、“典子との結婚を許したら会社の安泰を約束する”と三角に言われる光太郎。昇進などに一瞬目がくらむも、次の瞬間「お金や地位で幸福になれるもんかっ」と北野が言い放つ。

 懸命に訴える彼の姿を見た光太郎は、“前から典子の婿は北野だって決めてたんだぁっ‘‘と叫ぶ。どれだけ邪魔をしても諦めず、一途に典子を愛し続けてくれたのは彼だけだったと、光太郎は密かに認めていたのだ。この告白により三角は身を引き、典子と北野は晴れて公認の仲となる……はずだった。

 いつも北野をいじめてばかりの光太郎が、心の底では彼の純粋な想いを感じ、きちんと評価していたことが明かされる本作屈指の感動回。しかしこのまま美しく終わらないのが、本作の真骨頂。

 光太郎は典子を抱きしめる北野の頭を斧で攻撃し、今日は4月1日「エイプリル・フールだ」のひと言と共に2人が吹っ飛び、物語は終了するのであった。

 

 本作が掲載されていた1980年代は、甘酸っぱい学園ラブストーリーが主流で絶大な人気を博していた。そんな中、コンプライアンスを完全に無視した『お父さんは心配症』の存在は大きなインパクトを読者に与え、伝説的ギャグ漫画として今も語り継がれている。

 物語にはちょっとほっこりする内容も含まれており、ただのぶっとんだギャグだけではないこともわかる。ただし、感動的な展開の直後には必ず笑えるオチが待ち受けている点も、本作の大きな魅力だと言えるだろう。

 『お父さんは心配症』で描かれる緩急の大きいストーリーは今の時代に読んでも面白く、笑いたいときの最高の起爆剤になるだろう。

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