
今年で創刊70周年を迎えた少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)。本誌にはさまざまなジャンルの少女漫画が掲載されており、少女たちの心を惹きつけてきた。
少女漫画界の歴史に残る名作も多く生まれてきたが、その中でひときわ異彩を放ち、読者に強烈なインパクトを与えた伝説的なギャグ漫画がある。それが、1984年から連載が始まった、岡田あーみんさんによる『お父さんは心配症』だ。
本作は、高校生の一人娘・典子を過剰に心配する中年男性・佐々木光太郎が巻き起こすハチャメチャストーリーである。典子のボーイフレンドである北野を包丁を持って追いかけまわしたり、唐突に交通事故に遭って血まみれになるなど、その内容はとにかくエキセントリックだった。
しかし、このような破天荒なギャグ漫画でありながら、『お父さんは心配症』には思わず胸が熱くなってしまう感動回も存在する。ハチャメチャだからこそ、突如描かれる感動的なストーリーに、読者はジーンとさせられてしまうのだ。そこで、意外にも(?)涙を誘う、心温まるストーリーを紹介したい。
※本記事には作品の内容を含みます
■光太郎の過激な行動と強い愛情が分かる「鼻血でデートの巻」
第2話の「鼻血でデートの巻」は、主人公・光太郎がいかにヤバいキャラか、それと同時に、娘の典子をどれほど大切にしているかが分かるエピソードだ。
父・光太郎の監視の目をかいくぐり、ボーイフレンドの北野とデートへ向かう典子。しかしその計画は光太郎にバレてしまい、結局3人で映画館へ行くハメに。
鑑賞したその映画に過激なラブシーンが登場すると、光太郎は興奮のあまり鼻血を大量出血。恥ずかしいと怒った典子は北野と先に帰るものの、そこで不良グループ3人に絡まれてしまう。
2人のあとをこっそりつけていた光太郎はすぐ典子のもとに駆けつけ、お得意のギャグでその場を乗り切ろうとするが、結局3人にボコボコにされてしまう。北野も痛めつけられたものの、光太郎の姿はそれ以上に痛々しいのであった。
ボロボロになった光太郎の姿を見た典子は「おとうさん」「ありがとう」と言って、涙ながらに光太郎に抱きつく。不意の感謝に照れた光太郎は「フン 帰るぞ」と言って自ら先頭に立ち、2人の距離を気にしつつ帰路につくのであった。
このときの心情を典子は「うちの父は とっても心配症で ちょっぴりテレ屋です」とモノローグで語っている。典子のデートを派手に邪魔して台なしにしながらも、娘のピンチにはすぐさま駆けつけ身を挺して守る姿に、不器用ながらも愛情深く育ててきたことがうかがえるだろう。
■光太郎が子どもだったらこんなにヤバくて感動的!? 番外編「小学生編その1」
『お父さんは心配症』本編とは異なるパラレルワールドで描かれた番外編「小学生編」では、それぞれのキャラがオリジナルキャストとして登場している。光太郎や金持ちの片桐、北野は小学生役、そして典子はその担任教師役としてハートフルな物語が展開された。
極貧小学生という設定の光太郎は、重い病気を持つ母(寝棺竹子)と暮らしており、転校先の小学校で片桐にいじめられていた。ある授業参観の日、光太郎の母は病気の身体を引きずり、畳ごと学校にやってくる。
一見、感動的な親心に見えた母のこの行動だが、実は彼女の病気は伝染病であり、クラス中に蔓延させてしまう。それに激怒した保護者たちは、“あんな汚い子どもは学校をやめさせるべきだ”と猛抗議。光太郎を庇って“代わりに自分が辞める”と言う典子だったが、そこで光太郎が“先生が辞めることはない、学校をやめて働く”と言って、その場を去ろうとする。
すると光太郎をいじめていたはずの片桐が「やめるなっ!」と叫び、ほかの子どもたちも光太郎は悪くないと庇って退学を阻止するのであった。
可愛い野良犬を“タンパク質だ”といって食べようとしたり、伝染病をクラス中に移して顔をボツボツにさせたりと、本エピソードでも過激なギャグは満載だ。そんな中、貧しい光太郎のためにクラスメイトが団結するラストシーンにはグッときてしまう。
……が、しかし。後日談として片桐のグループ5人が欠席。その理由を光太郎は、“僕の家に遊びに来てみんな赤痢になってしまった”と、申し訳なさそうに話している。光太郎を学校に引き留めたのは果たして正解だったのだろうか? 物語は一筋縄では終わらない……。