ジブリの名作『火垂るの墓』にまつわる「知られざるトリビア」清太と節子を覆う影、のちの名監督が描いた軍艦…同時上映の名作もの画像
アメリカひじき『火垂るの墓』(新潮文庫)© SHINCHOSHA All Rights Reserved.

 2025年7月15日、Netflixにてスタジオジブリ映画『火垂るの墓』(1988年公開)の独占配信が開始された。加えて、8月15日の『金曜ロードショー』において、7年ぶりの地上波放送も決定し、大きな注目が集まっている。

 本作は野坂昭如さんの短編小説を原作に、アニメーション界の巨匠・高畑勲監督が手がけた作品だ。戦争の悲惨さを生々しくも強烈な描写を通じて観る者に突きつける本作は、令和の今こそ我が子に見せたいという親世代も多いようだ。

 世界中で愛され続け、多くの視聴者の心を揺さぶる不朽の名作であるが、実は本編を見ているだけではなかなか気付くことのできない、意外なトリビアが潜んでいることをご存じだろうか。

 さっそく、本作をより深く味わうための、知られざるトリビアの数々について見ていこう。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■ポスターに隠された影

 1988年に劇場公開された『火垂るの墓』は、ほかの映画作品同様、当時は映画館をはじめ、さまざまな場所に広告用のポスターが貼られていた。

 ポスターに描かれていたのは、真っ暗な夜の草原の上、物語の主役である兄・清太と妹・節子の2人が、宙に浮かぶ蛍の群れのなかにいる姿が描かれている。

 蛍の光に笑顔を浮かべる節子と、それを見守る兄・清太。一見すると、戦火に追いやられた幼い2人の、束の間の安らぎを描いた一時のようにも見える。

 しかし、このポスターにはある巧妙な仕掛けが施されていた。ポスター上部の闇の中に、なんとも不穏な影が隠されていたのである。

 この影の正体は、作中にもたびたび登場し、街を焼き尽くしていった戦闘機の影だった。さらに、兄妹を照らす光は蛍の光とは別に、空から降り注ぐ焼夷弾と思わしき炎の光も描かれているのだ。

 兄妹の健気な姿と、その背後に潜む戦争や戦火という本作の重いテーマを見事に両立させた、なんとも巧妙なイラストとなっている。

■軍艦を描いた、のちの名監督

 清太らの父は大日本帝国海軍の将校として前線で活躍しており、清太は作中で幾度となく、敵国との戦いに赴く厳格な父の姿を回想している。

 物語の後半、清太は父に思いを馳せるとともに、かつてその目で見た重巡洋艦「摩耶」の姿を思い起こす。

 作中には夜の港に停泊し、ライトに照らし出される立派な重巡洋艦の姿が登場するのだが、実はこの巨大な軍艦の作画を、ある意外な人物が手掛けていた。

 その人物とは、のちに『ふしぎの海のナディア』や『新世紀エヴァンゲリオン』といった数々の名作を世に送り出すこととなる庵野秀明さんである。

 庵野さんは当時、『火垂るの墓』に原画スタッフとして参加しており、膨大な時間をかけ「摩耶」を細部に至るまで緻密に描き上げたという。

 しかし、完成した本編映像ではこの重巡洋艦の姿がシルエットとして黒く塗りつぶされてしまっていた。庵野さんはこのことを振り返り、当時はショックを受けたとインタビュー記事のなかで語っていた。

 なんとも惜しい話ではあるが、のちに開催された展覧会『高畑勲展ー日本のアニメーションを作った男。』で、この原画が公開され、その圧倒的な描き込みの凄まじさは多くのファンを唸らせることとなったのだ。

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