■読者のファンも多かった長髪の編集者『はいからさんが通る』青江冬星
大和和紀氏による『はいからさんが通る』は、1975年から77年にかけて『週刊少女フレンド』(講談社)で連載された人気作品だ。そんな本作にも、ルックスも性格も良いのにヒロインにフラれた人物がいる。それが、青江冬星だ。
主人公の“はいからさん”こと花村紅緒には、伊集院忍という少尉の許嫁がいた。2人は紆余曲折を経て両想いになるのだが、忍は戦争が原因で記憶喪失になり、紅緒のことを忘れてしまう。
ショックを受ける紅緒を献身的にサポートしたのが、この冬星であった。最終的に2人は結婚の約束を交わすのだが、しかし結婚式当日に関東大震災が発生。混乱のなか、紅緒と忍は運命的な再会を果たし、再び愛を誓い合う。その様子を見た冬星は「二度と伊集院を離すんじゃないぞ」というセリフを残し、静かに紅緒の前から立ち去るのであった。
忍のことを忘れられない紅緒にそっと寄り添い、彼女のために仕事をやめる決断をしたりと、とにかく優しい冬星。それなのに結婚式当日に花嫁を奪われてしまうなんてなんとも不憫である。当時の読者のなかには、忍ではなく冬星が紅緒と結ばれるべきだという意見も多かった。
その後、紅緒と別れた冬星の生涯は、番外編『霧の朝 パリで』にて描かれている。フランス・パリで紅緒にそっくりな少年・ペールと出会った冬星は彼を養子にし、青江家の跡継ぎとして育て上げた。そしてそれを見届けたあと、冬星は38歳の若さで亡くなってしまうのだ。
紅緒とは結ばれなかった冬星だが、ペールとおだやかな愛に包まれた生涯は決して不幸なだけではなかっただろう。
このように昭和の人気少女漫画には、プリンスに引けを取らない魅力を持つライバル男子が数多く登場していた。
ヒロインとは結ばれないうえ、不遇な結末を迎えることが多い彼らだが、その存在は物語自体を盛り上げるのに必要不可欠であり、ときには主役のプリンスをもしのぐ人気キャラになることもあった。
ヒロインにフラれてしまう運命は気の毒だが、それでも彼らが恋愛の中で見せた輝きは印象的で、今も読者の心に深く刻まれている。