■過酷な過去を知ると評価が一変する女傑

 次に紹介するのはOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場する「シーマ・ガラハウ」。苦難に満ちた彼女の生涯は壮絶そのもので、戦争の闇に翻弄された人物のひとりである。

 一年戦争時、ジオン公国軍の将校だったシーマは、急造された荒くれ者部隊を指揮。破壊工作などに従事し、ジオンのコロニー落としのために民間人を毒ガスで虐殺させるという恐ろしい任務も請け負わされた。

 そのとき実は毒ガスではなく催眠ガスと聞かされており、上官から非人道的な行為の責任を押しつけられたのである。

 虐殺者の汚名を着せられ、同じジオン軍人からも白い目で見られることになったシーマ。故郷のサイド3「マハル」はコロニーレーザーに改造されて帰る場所を失い、汚れ仕事を担ったことが災いしてアクシズへの亡命も拒否されてしまう。

 戦犯で連邦から追われるだけでなく、友軍であるはずのジオンからも疎外されたシーマは、宇宙海賊として生きる道を選択するしかなかった。略奪を繰り返しながら地球連邦の一部や、アナハイム・エレクトロニクスと独自のパイプを作り、安住の地を模索したのである。

 そんななか、ジオン軍の残党「エギーユ・デラーズ」に招聘され、デラーズ・フリートに参加する。

 しかし、これまでジオンに散々虐げられ、不信感しかないシーマが、ジオンに対して崇高な想いを掲げるアナベル・ガトーやデラーズと同じ感情を抱けるはずがなかった。

 劇中でデラーズを裏切って非難されると、シーマは「故あれば寝返るのさ」と言い放つ。だが、その背景にはジオンに対する積年の恨みと憎しみがあったのである。

 OVA初見時はシーマの変節を苦々しく思った人も多いはずだが、それまでの壮絶な半生を知ると彼女に対するイメージは一変したことだろう。

 シーマ艦隊の荒くれ者たちを率いた女傑は、パイロットとしても超一流。指揮官用のゲルググMや、アナハイムとの裏取引で譲渡されたガーベラ・テトラなどで活躍する。

 190cmを超える長身と荒々しい言動が印象的な女性だったが、ドラマCD『宇宙の蜉蝣』には、毒ガスで民間人を虐殺したことがトラウマになっているシーンが。「私は、知らなかった……! 毒ガスだなんて知らなかったんだよぉ」とシーマが悲痛な叫びをあげる場面は胸にくるものがある。

 OVAでは彼女のたくましさや強さ、したたかさなどが強調されているが、結果的に自分の手で行ってしまった非道な行為に苦しむ弱い部分もあった。そして彼女がずっと求めていたのは金でも名誉でもなく、苦楽をともにしてきた家族……シーマ艦隊の皆の安住の地の確保なのだ。

 最終的に、デラーズ紛争のなかで唯一の家ともいえる旗艦「リリー・マルレーン」を失い、シーマ自身もガンダム試作3号機に敗れて戦死する。だが、シーマが受けてきた過去の苦しみを知ってしまうと、『0083』のヒロインよりもはるかに健気で共感できる人物に思えた。

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