
1999年に西村博之氏によって開設された巨大インターネット掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」。膨大な数のスレッドが立つこの掲示板では、匿名性ゆえのトラブルが多い一方で数々の流行が生み出され、時には社会現象を巻き起こすこともあった。
その一つが、「電車男」である。ブームになったこのスレッドは実写化され、2005年には山田孝之さん&中谷美紀さん主演の映画版、7月には伊藤淳史さん&伊東美咲さん主演のドラマ版(フジテレビ系)が放送された。
2025年は、実写化から20周年。そこで今回は、大ヒットを記録しながらも配信も再放送もされず、視聴が困難となっているドラマ版の『電車男』を振り返りたい。
※本記事は作品の内容を含みます。
■オタクとお嬢様の恋!偶然の出会いから生まれた壮大な物語
『電車男』は、とあるオタクがネット民に助けられながら恋を成就させる物語。ネットと現実の融合という新しいスタイルは人気を博し、関東地区では瞬間最高視聴率25.5%を記録した。
主人公は、年齢=彼女いない歴のオタク・山田剛司(伊藤淳史さん)。物語は、剛司が電車内で酔っぱらいに絡まれる青山沙織(伊東美咲さん)を助けるところから始まる。
彼女に連絡先を聞かれた剛司が高揚して掲示板に書き込み、後日沙織からお礼としてエルメスのティーカップが届くと、ネット民は彼女をエルメス、剛司を電車男と名付けて盛り上がりを見せていく。
奥手な剛司に次々とアドバイスを送るネット民。その甲斐あって剛司は初デートを成功させ、以来彼らのサポートを受けて沙織との距離を近づけていく。
とはいえ、住む世界の違う二人の恋はそう簡単にはうまく行かない。オタクであることを隠していたためにトラブルが連発し、あげくには恋のライバル・桜井和哉(豊原功補さん)までも出現するのだ。
終盤には掲示板が沙織にバレ、ショックを受けた沙織は剛司を拒絶。傷ついた剛司は掲示板から去ってしまう。
ここで動いたのがネット民である。皆は秋葉原で電車男を探し回り、それを知った剛司はもう一度だけ頑張ると奮起。沙織に掲示板を見るよう留守電を残し、謝罪とともに「秘密の場所で待ってます」と書き込んだ。
一方の沙織も留守電を聞いて掲示板を見る。そして、そこに綴られていた剛司の想いとネット民たちを見て涙を流すと、秘密の場所へと向かう。沙織を狙う桜井の妨害作戦にあいながらも二人は再会を果たし、剛司はついに告白。沙織も笑顔で受け入れ、初めてのキスを交わすのだった。
ハッピーエンドは想像がつくものの、そこに至るまでの過程に爽快感があって目が離せない『電車男』。今回改めて再視聴したが、つい当時と同じようにネット民目線で電車男の恋を応援してしまった。それほどに入り込めるのも本作の魅力だろう。
■ネットの世界と現実が入り混じる絶妙な演出
「731 :Mr.名無しさん :2004/03/14 21:25
すまん。俺も裏ぐった。
文才が無いから、過程は書けないけど。
このスレまじで魔力ありすぎ…
おまいらにも光あれ…」
オリジナルは、2004年に2ちゃんねるの「独身男性板(毒男板)」に書き込まれたこの文章から始まった。ネット民の反応は様々だったが、その後相手女性からエルメスのカップが届くと、チャンスを掴めと応援の声も次第に増え恋の勢いに拍車がかかる。
当時はまだスマホもなく、SNSも浸透してもいない。今ならばいつでもどこでも簡単に人とコミュニケーションが取れるが、当時はパソコンが主流で、携帯で見る場合でも利用者は限られていた。だからこそオタクとエルメスのような華やかな人とは違いも大きく、彼らの恋は注目を集めたのである。
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!」というAA(アスキーアート)が流行していた頃でもあり、掲示板は進展が語られるたびにこのAAを含めた思い思いのAAで溢れ返り大盛り上がり。一種のお祭り騒ぎのようになっていった。
基本的に全てネット上の出来事ゆえ、実写化するとなるとこの盛り上がりをどう表現するかが問われるのだが、本作は日本地図上を回線が走り回るイラストやスラングの流用など、うまくネットと現実がブレンドされている。書き込みをネット民の語りにしたりパロディ満載にしたりとコミカル路線なのも、視聴者が入り込みやすいポイントだろう。
ちなみに、オープニングでエレクトリック・ライト・オーケストラの楽曲『トワイライト』にのせて流れるのは、剛司が好きなミーナの架空のアニメ。しかもこの映像は、1980年代初頭に活動しカリスマ的な人気を誇った映像制作集団「DAICON FILM」(ガイナックスの母体)が制作した「DAICON IV」のオープニングアニメのオマージュだ。