■一人の人間に宿った恐ろしき人格たち…『催眠』
1999年に公開された、小説家・松岡圭祐さんの人気シリーズを原作とした映画『催眠』。心理カウンセラーの主人公・嵯峨敏也を「SMAP」の元メンバー・稲垣吾郎さんが演じたサスペンスホラー作品で、催眠術によって奇怪な死を遂げていく人々の謎を、嵯峨が解き明かしていくという物語である。
本作で菅野さんは、物語のキーパーソンとなる女性・入絵由香を演じた。由香は事件のカギを握る人物として嵯峨と接触していくのだが、彼女も催眠術の影響で精神が不安定となり、物語を通じてさまざまな悲劇を生み出してしまう。
実は由香はいくつもの人格を持っていた。そのため、ふいに別の人格が発現し、意表をついた行動をとるようになっていく。場面ごとに由香の態度や立ち振る舞いがガラリと大きく変わる様子も、本作の見どころだろう。
菅野さんは、笑み一つとっても実にさまざまな表情を見せていた。大人のような怪しい色気を感じさせる微笑みから、怪異を彷彿とさせる表情……物語後半になるにつれ、彼女のなかに眠る人格はその危険性を増していき、やがては嵯峨にとっての脅威となっていく。
複数の人格を持つという難しい役柄だが、菅野さんは見事に演じ切り、壊れていく人間のおぞましい恐怖を表現していた。菅野さんの卓越した演技力がいかんなく発揮された、絶妙なキャスティングと言えるだろう。
さまざまなホラー作品に出演している菅野美穂さんは、作品ごとに異なるキャラクターを演じてきた。美しき怪物、物語の黒幕、多重人格者……可愛らしさや美しさの隙間に見える冷徹さや異質さが、観る者を震え上がらせる。
新作のホラー映画で、はたして菅野さんはどんな怪演を見せてくれるのか。新たに表現される恐怖の形に、期待が高まる一方だ。