
小説家・背筋さんの人気小説を原作としたホラー映画『近畿地方のある場所について』が、2025年8月8日より全国公開を迎える。『ノロイ』や『貞子vs伽椰子』『不能犯』などで知られる白石晃士監督がメガホンを取り、原作ファンはもちろん、ホラー映画ファンたちの間でも大きな盛り上がりを見せている。
本作では「ある場所」を追い求める雑誌編集者の男性を赤楚衛二さんが演じ、彼とともに隠された真実に立ち向かっていくオカルトライター役として、菅野美穂さんが抜擢されたことでも注目を集めている。
天真爛漫な笑顔が印象的な名女優・菅野さんは、これまでも数々のドラマや映画に出演してきた。その中には、観る者を思わず凍りつかせてしまう“恐ろしい女性”を演じた作品も少なくない。
そこで、菅野さんの怪演が光った「怖すぎる女」を振り返ってみよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■人ならざる者を表現した怪演…『富江』
繊細なタッチで独自の世界観を描き続けているホラー漫画界の巨匠・伊藤潤二さん。彼のデビュー作である『富江』は、美しくも恐ろしい怪物・富江の圧倒的な存在感と、彼女が繰り広げる戦慄のエピソードが多くの読者を魅了してきた。
1999年に実写映画版が公開された際、映画のタイトルにもなっている美女・富江を演じたのが菅野さんだ。
富江は一見すると長い黒髪の美しい女性なのだが、その正体は人知を超えた怪物である。体をバラバラにされても再生し、肉片から複数に分裂するなど、人間離れした不死身性で見る者を驚かせる。一方、小悪魔的な魅力を持ち合わせており、作中では多くの男性が心を奪われ、破滅へと導かれていた。
映画版で菅野さんが演じた富江は、原作に比べると少し幼さが残る美少女として描かれている。しかし、無機質な立ち振る舞いやふとしたときに見せる冷たい微笑みは、彼女が隠し持つ怪物性を見事に表現していた。
なかでも印象的だったのが、なんと我々がよく知る“害虫”を生きたまま素手でつまみ、足をばたつかせ暴れる虫を片手にけらけらと嬉しそうに笑うという体当たり演技だ。その異様な姿は、富江というキャラクターを強烈に表現してみせた。
幾度となく見せる彼女の暗い微笑が、トラウマになること間違いなしの一作である。
■可愛らしい女子高生の本当の顔とは…『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』
漫画家・古賀新一さんの代表作『エコエコアザラク』は、黒魔術を駆使する若い魔女・黒井ミサを主人公に、彼女が巻き込まれる事件や、そこから見えてくる人間の闇を描いたホラー漫画である。
本作は1995年に、『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』のタイトルで実写映画が公開された。
ミサが魔女の力を駆使し、東京で巻き起こる猟奇殺人事件へと立ち向かっていく本作において、菅野さんが演じたのは彼女の数少ない協力者であるクラス委員・倉橋みずきだ。
菅野さんの可愛らしさを活かした初々しい女子高生役かと思いきや、物語が進行するにつれ、その本性が徐々に明らかになってくる。
前半こそミサの良き理解者として振る舞うみずきだが、実は彼女こそ、ミサと敵対する魔術師たちを束ね上げる黒幕とも呼べる存在だった。
終盤になると彼女は態度を一変。これまで見せてきた優しい姿を捨て去り、冷徹な眼差しと、己の理想のためにいっさいを顧みない残忍さをあらわにしていく。ミサを裏切って危害を加えたり、目を見開いて高笑いを上げるなど、その豹変ぶりはまさに怪物的。果てない欲望に憑りつかれた人間の闇を感じ取ることができる。
みずきを演じた当時、菅野さんは10代であったが、その演技は圧巻の一言。みずきが持つ光と闇という二面性を型破りな演技で表現していた。
ちなみに本作ではかなり壮絶なゴアシーンも展開されているが、みずきもまた強烈な散り様で観る者にインパクトを残した。菅野さんが見せた二面性と衝撃的な演技は、今なお語り継がれている。