矢沢あい『マリンブルーの風に抱かれて』に水沢めぐみ『チャイム』も…90年代『りぼん』名漫画家たちの「大ブレイク前の隠れた名作」の画像
『姫ちゃんのリボン』メモリアル DVD-BOX(フロンティアワークス)(C)水沢めぐみ/集英社・NAS

 今も昔も、少女たちを夢中にさせ続けてきた「少女漫画雑誌」。なかでも爆発的な盛り上がりを見せていたのが、90年代である。とくに『りぼん』(集英社)は1993年末に過去最高の発行部数255万部を記録。令和になった今も、その記録は破られていない。

 思い返してみると、90年代の『りぼん』は「りぼん黄金期」と呼ばれるほど勢いがあり、名作揃いだった。当時は、矢沢あい氏の『天使なんかじゃない』や、水沢めぐみ氏の『姫ちゃんのリボン』をはじめ、多くの作品が大ブレイクした時期だ。

 しかしこれらを手がけた名漫画家たちは、これ以前にも面白い作品を生み出しており、大ブレイクが起きる前の、みずみずしい作品として今も語り継がれている。今回は、そんな「隠れた名作」たちを紹介したい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■『天ない』の原点がここに ― 矢沢あい『マリンブルーの風に抱かれて』

 矢沢あい氏が手がけた『りぼん』の代表作といえば、先述した『天使なんかじゃない』や『ご近所物語』がある。だが、矢沢氏はその前にも『マリンブルーの風に抱かれて』というサーフィンをテーマにした作品を1989年より連載していた。ちなみに本作は、矢沢氏初の長期連載作品であった。

 本作は高校生の橘遙が、小学生の頃に海で自分を助けてくれた初恋の有川亨と偶然海で出会うことから始まる。サーフィンを通じて出会った高校生4人の友情や夢、三角関係など、眩しくて切ない青春と恋が描かれている。

 本作ではすでに矢沢作品らしい独自の繊細な表情のタッチや、コマの外に手書きで添えられる短くも鮮烈な言葉の数々が見られる。ただ、のちに描かれる『天使なんかじゃない』や『ご近所物語』などに比べるとコメディ要素は少なめで、男女間の友情と恋愛の狭間で揺れる繊細な心理描写が多い。

 「あたしたちの海は 永遠の輝き」といった、心情を詩的につづるセリフも随時入っており、今読み返してみると、良い意味でバブル時代に戻ったような懐かしい気持ちにさせてもらえる。

 ちなみに矢沢作品の特徴である、ポップでおしゃれな私服や着こなしも本作ではすでに描かれている。矢沢作品のファッションに夢中になったファンなら必見の本作。もしまだ未読の人がいたら、見てみてほしい。

■昔から変わらないキュートな絵柄にも注目『チャイム』水沢めぐみ

 水沢めぐみ氏の『りぼん』における代表作は、1990年より連載された『姫ちゃんのリボン』が挙げられるだろう。

 本作は魔法のリボンをつけて他人に変身する主人公・野々原姫子の活躍を描いた作品だ。いわゆる“魔法少女もの”であるが、恋愛や友情、姫子の成長などが丁寧に描かれた少女漫画界に残る名作である。

 そんな水沢さんが『姫ちゃんのリボン』を手がける前年、1989年に連載していたのが『チャイム』だ。

 本作の主人公は、中学3年生の立原朝子。写真部に所属する朝子は同じクラスの高野良介のことを好きになるが、親友の本橋なみ子も彼のことが好きなため、自分の気持ちを素直に打ち明けられない。学校生活において育まれていく恋愛や友情模様が、優しく切なく詰まっている作品だ。

 ストーリー的には、親友と同じ人を好きになって苦悩する主人公……という王道展開であるが、水沢氏の作品は良い意味でドロドロした展開が少ないので、安心して読むことができる。大人になった今読み返しても、中学生たちのピュアな初恋にきゅんとしてしまうだろう。

 また水沢作品といえば、大きな瞳にふわふわの髪をしたキャラクター、透明感やピュアさを感じられる優しい絵柄が特徴だが、時間が経過してもほぼ変化がないのもすごいところだ。本作も約35年前の作品ではあるが、いまと変わらない美麗な絵が堪能できる。

 ちなみに水沢氏は現在も『姉系プチコミック』(小学館)にて『空の音色』を連載している。昔の作品とほぼ変わらない、キュートで繊細な絵柄にもぜひ注目してほしい。

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