■『こどものおもちゃ』のリアリティをはらんだルーツ、小花美穂『せつないね』
1994年より連載が開始された『こどものおもちゃ』が大ヒットし、一躍人気漫画家となった小花美穂氏。そんな小花氏は1992年に『せつないね』という短編作品を掲載している。
本作の主人公は15才の少女・桜井千絵。パチンコ店を経営している千絵の家には、駆け落ちカップルである18才の岩城恭司と倉沢郁子が住み込みで働いていた。千絵はそんな恭司に恋をし、郁子との仲を引き裂くべくある行動に出てしまう……というストーリーだ。
それまで『りぼん』の王道少女漫画といえば、主人公が恋愛と友情の狭間で悩み、結局、友情を優先するといった心優しいキャラが多かったように思う。
しかし本作は、さまざまな事情を抱えた人々が集うパチンコ屋を舞台に、年上男女の訳アリカップルの恋愛が登場するなど、リアリティがあった。学級崩壊や少年犯罪など数々の重いテーマも組み込まれていた『こどものおもちゃ』と通ずるものがあるように感じる。
“友情のために恋愛を諦める”という少女漫画における王道展開に一石を投じ、人の持つちょっと悪い部分やずるい部分もリアルに描いていた本作。「本当は友情も恋愛もどっちも諦めたくない」当時から小花氏の作品では、そんな少女たちの心の中の声がすくい上げられ描かれていた。
90年代の『りぼん』作品といえば、少女漫画界に残る有名作品を思い出す人が多いだろう。しかしその大ヒット以前に発表された作品にもぜひ目を向けてほしい。影に隠れたブレイク前の作品たちもまた、時代を超えた感動を秘めているのだ。