
トップ女流棋士として活躍する香川愛生さんは、「ポケモン好き」を公言する大のゲームファン。自身のYouTubeチャンネルでは、『ポケモン』の実況動画やポケモンカードの開封動画を配信。さらには、バトルイベント「ポケモン竜王戦」の解説者を務めたり、ゲーム制作スタッフと「ポケモンバトル」を披露したりしている“ガチ勢”なのだ。そんな香川さんが愛してやまない『ポケットモンスター』への熱い思いを聞いた!
【第3回/全3回】
ポケモンバトルの魅力は「一対一の読み合い」
──香川さんの“ポケモン愛”についてじっくり伺います。最初にハマったのは『金・銀』『クリスタル』だそうですね。
香川:当時『ポケットモンスタークリスタル ライコウ雷の伝説』(2001年)っていう、サトシが主人公じゃない番外編的なスペシャルアニメをやっていたんです。それを観終わってからは、そのアニメの登場キャラと同じ名前をつけて、同じポケモンを選んで2周目を遊んでいました。
──ゲームとアニメ両方を存分に楽しんでいたんですね。
香川:『ポケモン』が好きな一番の理由は「対戦」なんですけど、アニメは、ストーリーやポケモンのキャラクター性が魅力的でした。『無印』(※1997~2002年放送)は、何度も観返すほど好きです。
──ゲームのこれまでのシリーズの中で「ベスト作」はなんでしょう?
香川:一番の思い出の作品は、やはり最初にハマった『金・銀・クリスタル』ですね。金→銀→クリスタルと、1年半以上ずっと遊んでいましたから。
──では、ポケモンのバトルの魅力とは?
香川:1対1の勝負での読み合いの要素が戦略的なところですね。
■トップ棋士たちに共通するポケモンバトルの戦略とは?
──では、頭脳スポーツとして、将棋と共通する部分ってありますか?
香川:一言で言えばやっぱり「読み」ですよね。自分のやりたいことがあって、でも相手の考えも読み取らなきゃいけない。その1対1の駆け引きっていうのは、共通する部分ですね。「読み」っていうと、先の展開を考えていく印象があるかと思いますが、実際は詰将棋のように、「こういうふうに勝つんだ」と終わりから逆算して考えることもあります。そんな「読み方」ができる競技とできない競技があって、『ポケモン』の場合はそれができますし、そこが将棋と似ている。そこが面白さのひとつかなと思います。
──棋士の方にもポケモンファンは多いと思います。棋士同士で対戦する際は、どんな感じなのでしょう? 将棋の対局時のようなカラーがにじみ出たりするのでしょうか。
香川:たしかに、藤井猛九段、糸谷哲郎八段をはじめ、トップ棋士から女流棋士までポケモンファンは多い印象です。将棋も含めて、ゲームに対する戦い方は個性が出るように感じますが、棋士の方は積極的に一気に攻め切るのではなく、駆け引きを楽しむような作戦を好む方が多いかなと個人的には思います。棋士の先生がポケモンの勝負所で長考されていると、「何手先まで読まれているんだろう」という気持ちになります(笑)。
──ポケモンバトルの奥深さを実感した瞬間というか、きっかけは覚えていますか?
香川:小さい頃はただ面白いというくらいでした。でも、中学生くらいになると、ニコニコ動画に『ポケモン』のバトル動画がアップされるようになって……。具体的には、『ポケモンバトルレボリューション』(2006年)っていうWiiの名作ゲームがあったんですね。これはポケモンバトルにスポーツ実況のような音声がついていて、バトル展開を立体的に楽しめるという作品でした。ポケモン対戦は自分でもプレイしていましたが、うまい人同士の対戦動画を観て、「あ、こんな戦い方があるんだ」「こんな裏の裏をかいた動きがあるんだ」と新たな発見があって、そこで改めて『ポケモン』の面白さを実感しました。
──“観る将”ならぬ“観るポケ”ですね。
香川:熱量のある人たちの作戦って、本当にすごいんです。その道のプロかと思うくらい。「同じポケモンがいてもこんなに違うんだ!」と感動しましたね。こういう話題って学校とか、私の身の回りではほとんど共有できなかったんですけど、動画上にコメントが流れるニコニコ動画では、みんなと同じ気持ちで見守っている気持ちを味わえました。共感はそこで満たされていたような気がします。
■好きなポケモンはハッサム
──『ポケモン』のシリーズ作はその後もコンスタントにプレイしてきたのでしょうか?
香川:奨励会(※日本将棋連盟のプロ棋士養成機関)に入っている時期は、いくつか遊べていないタイトルもあります。そういう経験もあって、「できる時には、よりしっかり楽しみたい」と思うようになりました。最近の『ソード・シールド』(2019年)、『スカーレット・バイオレット』(2022年)はしっかり遊んでいます。私のYouTubeのサブチャンネルで実況プレイしてみたり、大会に出場したりしていたら、2023年の世界大会(ポケモンワールドチャンピオンシップス2023)の、ニコニコ生放送の現地リポーターにキャスティングしていただけました。ポケモン好きとして、今までの中で一番嬉しいお仕事でしたね。
──香川さんのポケモンバトルのスタイルは、パーティをガチ勢で固める派でしょうか。それとも、自分の好きなポケモンをどう生かすかで組む派でしょうか?
香川:私が好きなポケモンはハッサムなんですが、『金・銀』で登場してからずっと、第一線で戦えるポケモンです。だから、好きなポケモンを軸にしても、強いパーティを組みやすいんですね。
──いろいろなタイプのポケモンが次々と登場していく中、“ハッサム愛”を貫いているあたりに、本物感があります。
香川:初めて見たときからずっと好きです! ハサミがすごくかっこいいんですよね。私が最初にやりこんだ『金・銀』は、タイトル通り“鋼タイプ”が新しく登場しました。鋼タイプのハッサムは、ある意味、世代を象徴するポケモンの一体ですし、タイプの強みを生かした技や強さをしっかり持っているので、そういう意味でも特別な存在ですね。