『NANA』幸子に『天ない』志乃、『パラキス』実和子も…大人になった今、感心してしまう「矢沢あい作品」女性キャラの「捨て身の恋の駆け引き」の画像
コンプリートDVD-BOX『NANA-ナナ-』第1巻(バップ)(C)矢沢漫画制作所/集英社・VAP・マッドハウス・NTV

 多くのヒット作を生み出してきた人気漫画家・矢沢あい氏。90年代の『りぼん』(集英社)の黄金期を支えた彼女の作品は少女漫画史に残る名作揃いで、一時代を築いたと言っても過言ではないだろう。おしゃれでカッコいい登場キャラクターに個性的で美しい作画、繊細なストーリーが、今もなお多くのファンを夢中にさせている。

 そんな矢沢氏の作品といえば恋愛が主軸のストーリーが多く、作中では「恋の駆け引き」が描かれることも多い。大人になった今、読み返してみると、思わず感心してしまうような捨て身のアプローチをしていた女性キャラもいて、見応えのある恋愛描写に唸らされてしまう。

 そこで今回は、矢沢作品に登場する女性キャラたちの「捨て身の駆け引き」について語っていきたい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■好きな人を振り向かせる…まさに捨て身の行動『NANAーナナー』川村幸子

 矢沢氏の“未完の名作”として愛される『NANAーナナー』。2009年の連載休止から早16年経った今でも、再開を望む声が止まない人気作だ。

 本作で「捨て身の恋の駆け引き」をした人物といえば、やはり川村幸子だろう。

 小柄で可愛らしい幸子は、主人公の1人である小松奈々の恋人・遠藤章司のバイト先に新人として入ってきた。“幸子を好きになる危険があるかも……”と、当初から感じていた章司はなんとか距離を置こうとするのだが、シフトもかぶることが多く、バイト終わりに終電に乗るため2人でダッシュしたことから一気に打ち解ける。

 ある日、幸子は駅の階段でミュールが脱げてしまい、章司に「先行って!」と声をかける。だが、優しい章司は彼女を待っていた。

 呆れた顔で「走らないと終電逃すの分かってて なんでそーゆー靴履くかな」と言う章司に対し、幸子は「わざとだよ?」と上目遣いで答える。見た目とは違い、恋愛に積極的な彼女の意外なギャップに驚いた読者は多いだろう。

 しかしこの時は奈々から章司に着電があったため、2人ともタクシーで帰ることになる。タクシー代を遠慮する章司に「彼女がいる人にはおごってもらわない主義なの」と、幸子はキッパリと宣言。実際はそれは強がりで、章司と別れてから号泣していたが……。芯の強い幸子の性格が見て取れるシーンだ。

 そして、この幸子の捨て身の行動をきっかけに、彼女からの好意が確信に変わった章司。最初は奈々を選ぼうとするものの、最終的に幸子の泣き顔にほだされてしまうのだった。

 当時、本作を読んだときにはまだ子どもだった筆者。幸子の高度すぎる恋愛テクニックに目から鱗だったことをよく覚えているが、大人になった今見てみても、やはり見事すぎる駆け引きである。

■美少女がとった度胸ある行動『天使なんかじゃない』原田志乃

 1991年から連載された『天使なんかじゃない』。『天ない』の略称で親しまれている本作は、創立された高校・私立聖学園の生徒会を舞台に恋愛や友情、将来に向き合いながら青春を謳歌する高校生たちの姿が描かれている。

 本作で恋の駆け引きをした女性キャラといえば、原田志乃だろう。主人公・冴島翠ら主要キャラよりも1歳年下の彼女は生徒会メンバー・瀧川秀一の恋人で、同じ高校に入学してきた。

 志乃は誰もが振り返るような美少女だ。一方、中学時代にいじめられた経験から裏のある性格になってしまい、恋愛面でも計算高く、さまざまな駆け引きをしていく。

 瀧川と関係がうまくいっていない時、志乃は体育祭で「秀一命」と背中に描かれた特攻服で登場。彼を繋ぎ止めようとする志乃の強引な意思表明であったが、それまで大人しい美少女のイメージだった彼女のこの行動は周囲を驚愕させた。それは、当事者の瀧川が腰を抜かすほどだった。

 彼女の捨て身の駆け引きは、まだまだ終わらない。翠や瀧川が高校2年生の時におこなわれた「第二期生徒会選挙」にて。第一期のメンバーがOBとして残留することが明らかとなり、瀧川目当ての女子生徒が競い合って立候補を表明する。

 この頃には瀧川の気持ちはすっかり志乃から離れていたが、あきらめることができない志乃は彼の近くにいたいという一心で生徒会へ立候補を表明し、結果は見事、トップ当選。なんと第二期生徒会長に選ばれている。

 読んでいた当時は、翠の親友・麻宮裕子の恋のライバルで“敵”のような気もしていたが、今思い返すと、周囲にどう思われようと自分を貫く志乃のこれらの捨て身の駆け引きは潔く、むしろカッコ良いとさえ思ってしまう。

 残念ながら瀧川とはうまくいかなかったが、紆余曲折あって成長を遂げた志乃はさぞかしイイ女になっていることだろう。

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