■恋人を思ういじらしい姿にキュン『Paradise Kiss』櫻田実和子

 ファッション誌『Zipper』(祥伝社)で連載されていた『Paradise Kiss』は、ファッションのことをはじめ、恋愛や友情、そして将来への葛藤なども描かれた見応えのあるストーリーだ。

 恵まれた容姿を持つ主人公・早坂紫がモデルを務めることになったブランド「パラダイス・キス」。そのメンバーである櫻田実和子と永瀬嵐は恋人同士だ。子どもの頃から幼馴染として育った2人だが、実は紫の同級生で彼女に想いを寄せる徳森浩行も同じマンションで育った幼馴染だった。

 嵐と浩行は小さい頃から実和子のことが好きだった。そして実和子もまた、2人に同じくらいの好意を抱いていた。

 しかし現実的に2人と同時に付き合うことはできない。嵐と成り行きで付き合うことになるが、実和子は浩行のことも好きだった。当然、嵐はそれを許さず、実和子は浩行に「会いたくない」と一方的に別れを告げてしまう。

 このことを後悔していた実和子は紫に相談すると、「今は嵐と恋人同士で幸せなんでしょ?」「だったら徳森くんの事は胸にしまって その分嵐を大切にした方がいいと思う」と諭される。

 その言葉を聞いた実和子はその足で嵐のもとへ向かい、「実和子は嵐を大切にするために来たんだよ」と告げるのだ。

 純真で素直な実和子は、嵐と浩行の両方に好意を抱いていることに苦しさを感じていた。だが、それでも紫の言葉に背中を押され、結果、嵐を選んで彼を大切にしようと心に決めたのだろう。

 “嵐が喜ぶことが幸せ”と真っ直ぐな瞳で伝える実和子。精神的に幼いところもある彼女が懸命に考えた結論だと思うと、そのいじらしさに胸を打たれる。とはいえ、その後、浩行と会っていたことが嵐にバレてしまい、険悪なムードになってしまうのだが……。

 実和子のこの捨て身の駆け引きは結果としてはうまくはいかなかったが、最終的にお互いの本音をぶつけ合って和解する。駆け引きなんてせず、ぶつかり合うことが、恋人にとって時には重要なのかもしれない。

 

 キャラたちの「捨て身の恋の駆け引き」を読み解くと、つくづく矢沢氏の描く恋愛の奥深さに感服してしまう。

 駆け引きに一喜一憂するのもまた、恋人同士のリアルだろう。当時、矢沢氏の作品を読んで“恋愛とは何か”を教えてもらった。その記憶は大人になった今も色褪せず、自分の一部になっているのを感じた次第だ。

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