
キラキラするような男女の恋愛を描いた少女漫画。誰もが憧れる夢のようなストーリーは、昔も今も多くの少女たちの心を掴んで離さない。
特に90年代の『りぼん』(集英社)や『なかよし』(講談社)は「黄金期」と呼ばれるほど人気を博し、時代を超えて語り継がれる名作たちが多く誕生した。毎回、“いいところ”で終わるため、次週の展開を待ちわびながら1カ月を過ごした人も多かっただろう。
だが、そんな名作少女漫画を手がけた作者たちが次に連載を始めた作品が、意外にも「ミステリーだった」というケースは少なくない。そしてそのミステリー作品もまた面白く、これまたどっぷりとハマっていったものだった。
そこで今回は、ヒット作のあとにミステリー作品を発表した90年代の少女漫画家や、その作品を紹介しよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■アニメ化も果たしたヒット作のあとは切ないラブストーリー『下弦の月』矢沢あい
90年代の「りぼん黄金期」の立役者である矢沢あいさん。彼女の代表作のひとつ『ご近所物語』は、1995年から『りぼん』で連載された。服飾科に通う主人公・幸田実果子が恋に夢に邁進する姿を描いた本作は、アニメ化もされるほど人気を博した。
そんなヒット作のあとに連載されたのが『下弦の月』だった。本作はイギリス人のミュージシャン・アダムと、女子高校生の主人公・望月美月を主軸に展開されるストーリーだ。
運命的に出会った2人だったが、ある日突然アダムは姿を消し、美月は不幸な事故に遭ってしまう。そして、この“下弦の月の夜”に起こった一連の出来事は、もう1人の主人公・小学生の白石蛍ともリンクしていく。
ある日、夢の中で美月と出会った蛍は、現実世界で不思議な体験をしていくこととなる。ひょんなことから美月と再会を果たすのだが、なんと彼女はほかの人には姿も見えず、声も聞こえない。この世のものではない存在だった。
自分の名前も分からず、“アダム”という恋人を探していることしか思い出せない美月に“イヴ”という名前を付け、彼女を救うため、蛍とその友人たちは手を尽くしていく。
全体的にダークな雰囲気が漂い、謎が謎を呼ぶ本作。生死をテーマにした壮大なラブストーリーでもあり、矢沢作品のなかでもファン人気の高い傑作だ。点と点が徐々に繋がっていくストーリーは見応えがあり、なんとも切なくも美しい結末が待っている。
コメディ要素の強い前作『ご近所物語』と同じ著者の作品とは思えないほど、ミステリーにどっぷりと浸かることができる作品だ。未読の人はぜひ読んでいただきたい。
■前作の主人公が作中で演じた作品が登場『水の館』小花美穂
小花美穂さんの代表作と言えば、1994年から『りぼん』で連載されていた『こどものおもちゃ』だろう。
本作は、子役として活躍する倉田紗南が、芸能界だけでなく小学校でもさまざまなトラブルを乗り越え、大成していく姿が描かれている。クラスメイトの羽山秋人とのドキドキするような恋も読者を夢中にさせた。
この連載後、読み切り作品として発表されたのが『水の館』だった。実は本作は劇中劇で、『こどものおもちゃ』の紗南が作中で出演した映画のストーリーである。
主人公は、6年前に失踪した兄が生存していることを知った14歳の少年・鈴原浩人。彼は兄を探すため、手がかりをもとに兄の友人の別荘に向かう。しかしその途中、道に迷って途方に暮れていたところを謎の美少女に助けられ、不思議な洋館に辿り着く。そこで数々の不思議な出来事に巻き込まれていく……という話だ。
物語序盤はコミカルなシーンもあるものの内容は重たく、ホラー要素もある。失踪した兄・正人と友人の中川美和、そして正人の恋人・園田真子が繰り広げる愛憎劇は、昼ドラさながらの臨場感だった。
物語の結末は切なく、浩人がどのような運命を辿るのかは明かされていない。そして、“無限ループもの”とも捉えることができるラストシーンは、ゾクッとするミステリーらしい結末となっていた。
しかし実は本作のラストについて、作者の小花さんが「“無限ループ”ではありませぬ。(※原文ママ)」と、自身のオフィシャルブログで明かしている。どうやら作中に「無限ループ」ではないヒントが描かれているそうだ(ちなみに筆者は読み返してみたが分からなかった……)。
小花さんによる綿密に練られたミステリーは、1999年から連載が始まる『パートナー』の世界観を彷彿とさせる。作中で演じている紗南や加村直澄の姿が見られるのも、また新鮮で面白い。