確かにカッコよかったけど…池野恋『ときめきトゥナイト』クールでぶっきらぼうな真壁俊はなぜここまで魅力的だった?の画像
『ときめきトゥナイト』 DVD-BOX(東宝)©池野恋/集英社・東宝

 今年で創刊70周年を迎える『りぼん』(集英社)。今も昔も少女たちを夢中にさせている少女漫画誌だが、なかでも最高発行部数が255万部を記録した「りぼん黄金期」と呼ばれる90年代には少女漫画界に残る名作が次々と誕生した。

 そんな黄金期を支えた作品の1つに、池野恋氏の『ときめきトゥナイト』がある。80〜90年代にかけて絶大な人気を誇った本作は、現在でも『Cookie』(集英社)にて続編となる『ときめきトゥナイト それから』が連載中だ。

 恋愛やファンタジーを織り交ぜたユニークなストーリー、可愛らしい作画など魅力満載の本作だが、大ヒットした理由の一つには主人公・江藤蘭世が恋に落ちるプリンス・真壁俊の存在があるだろう。寡黙でぶっきらぼうな彼は読者の憧れの男性であり、彼のことを“初恋だった”と語る人も少なくない。

 今回は『ときめきトゥナイト』のキャラクターでも圧倒的な人気を誇る「真壁俊の魅力」について振り返ってみたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■無口でクールなプリンス・真壁俊…衝撃だった伝説のキス

 まずは、真壁俊がどのようなキャラだったかを見ていこう。

 俊は、本作の主人公・江藤蘭世の好きな人であり同級生だ。蘭世の恋のライバルである神谷曜子からもさんざん追いかけられつつも、クールな言動で彼女たちのアプローチをうまくかわしていく。

 そもそも『ときめきトゥナイト』はラブコメ作品であり、魔界人である蘭世が魔力の力で変身したり、曜子が犬にさせられ活躍したりとハチャメチャな展開が多かった。だが、そんななか俊はいつもむすっとしていて、キラキラした表情を見せることはない。作者の池野氏が“無口なキャラである俊を描くのは難しくて気をつかった”と、のちのインタビューで明かしていたほどだ。

 しかしコミカルな作風だったからこそクールな俊は引き立ち、その行動やセリフは読者たちをドキドキさせた。特に読者が胸キュンしたシーンといえば、伝説の壁ドンキスだろう。

 『ときめきトゥナイト』第一部の終盤において、魔界では二千年前に災いを起こした冥王ゾーン(ノーゼ)が復活してしまう。冥王と戦うため魔界に行く俊に、私も一緒に行くと言う蘭世。俊はそんな蘭世の両手を掴み、口封じのキスをしつつ壁ドン姿勢のまま「…たのむ ここにいてくれ」と告げるのであった。

 当時の少女漫画のキスシーンといえば、男女が見つめ合い、その後ゆっくりとキスをするような展開が多かった。しかし俊の場合は大切な蘭世を守りたいがゆえの強引なキス。このようなキスシーンの描かれ方は当時では珍しく、筆者も衝撃を受けたことを思い出す。これは俊だからこそできた行動であり、この上なく似合っていたのだろう。

■時を経て明かされた俊の行動…その裏には「あの男」がいた

 瞬は無口でシャイな性格ゆえ、蘭世を傷つけてしまうことも多かった。しかし、なぜ彼がそのような行動を取ったのか、その背景が描きおろし作品として刊行された『ときめきトゥナイト 真壁俊の事情』(2013年)で紹介されている。

 たとえば、冥王との戦いで魔力を失い普通の人間に戻ってしまった俊が急に蘭世の前から姿を消した時のこと。悲しみに泣き崩れる蘭世だったが、俊がそれを決意したのは彼の双子であるアロンの言葉がきっかけだった。

 アロンは人間になってしまった俊に対し、蘭世との今後について“たとえ魔力を失い人間になってしまっても一緒に生きていく方法は必ずある”と告げる。アロンは励ますつもりで言ったのだろうが、その言葉により俊は現実を直視し、今後の蘭世との関係を真剣に考えた結果、2カ月後に別れを告げてしまうのだ。

 また、アロンの結婚式のあと蘭世と2人きりになった俊は「…いつか」とつぶやき、ちょっとぶっきらぼうなプロポーズをしている。

 実はこの時期の俊の前には、冥王ゾーンとの戦いで死んだはずのダーク=カルロが頻繁に現れていた。蘭世のことを愛していたカルロは死後も俊のもとをたびたび訪れては、“蘭世にプロポーズしないのか”とはっぱをかける。

 照れ屋でなかなか思いを口にできない俊に業を煮やしたカルロは「私がおまえの中に入って代わりにいってやろう」と告げる。それを聞いた俊は、慌てて精一杯のプロポーズをしたのだ。

 その後、21歳の蘭世の誕生日に俊は正式なプロポーズをしているが、その際もカルロに邪魔され、蘭世に誤解されている。そう考えると俊のぶっきらぼうなセリフや態度は、彼の性格はもとより、彼を取り巻く男性たちの影響もありそうだ。

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