
1985年に漫画家デビューをして以来、活躍を続ける矢沢あいさん。『天使なんかじゃない』『ご近所物語』『下弦の月』『NANA』など、数々のヒット作を飛ばし、少女漫画界のレジェンドとも言える存在である。
矢沢さんの漫画はキャラクターたちが着こなすおしゃれな洋服や、美しく凝った小物が随所に登場するのも特徴だ。個性的なファッションやヘアメイクは思わず真似したくなるほど魅力的で、当時、漫画を読みながら憧れていた人も多いのではないだろうか。
実は、そんな矢沢さんの作品の中には、実在するブランドも登場している。「矢沢作品を見て初めてそのブランド名を知った」「憧れて購入した」という読者も少なくない。
そこで矢沢さんの作品に登場していた実在する「おしゃれブランド」を振り返ってみていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■キャラたちが乗り回す姿が印象的!『ご近所物語』スーパーカブ&シャネル
1995年2月号の『りぼん』(集英社)から連載されていた『ご近所物語』は、テレビアニメ化もされた人気作だ。
おしゃれで可愛い主人公・幸田実果子が、“デザイナーになる”という夢を追いながら、恋に友情に青春を謳歌する物語だ。
中学時代から自分のおしゃれを貫く実果子は、ファッションや持ち物1つとってもおしゃれだった。ポップでカラフルな雑貨に囲まれた彼女の周りには、とにかく可愛いものが多く、当時読んでいてワクワクと惹きつけられた。
本作に登場するブランドとして有名なのが、『Honda』のバイク「スーパーカブ」だろう。1950年代から製造販売されており、時代を超えた今でも定番の人気モデルだ。
作中では、原付免許を取ったボーイフレンドの山口ツトムのために実果子が用意したことで登場した。『魔法使いサリー』のサリーちゃんの弟が“カブ”という名前だったことから「サリーちゃん号」と名づけられ、それからもたびたび登場する。
レトロで可愛らしい見た目が『ご近所物語』のおしゃれな雰囲気によく合っていて、本作を見て「スーパーカブ」を知り、乗るようになったという人も少なくないようだ。
ちなみに、この「サリーちゃん号」は、実果子の妹である櫻田実和子が、続編にあたる『Paradise Kiss』で乗っており、大切に受け継がれていることが明かされた。
また、有名ブランド「シャネル」もまた、本作に登場している。
“ナイスバディ子”と呼ばれるほど、スタイル抜群の美人である実果子たちの先輩・中須茉莉子。ツトムをはじめ次々と男性を乗り換えていくような女性で、短いスカートに濃いリップが印象的だった。
そんな茉莉子が耳に輝かせていたのが「シャネル」のピアスだった。アルファベットのCが交差するブランドのアイコン、ココマークがとてもアイコニック。高校生のバディ子がシャネルを着こなす姿は子どもながらにカッコよく、“おしゃれな大人の女性”のイメージの基盤になったように思う。
■個性的なジャケットも着こなす姿に憧れた!『NANAーナナー』ヴィヴィアン・ウエストウッド
2000年7月号の『Cookie』(集英社)から連載されている『NANAーナナー』。奈々とナナ、同じ名前の2人の女性主人公を中心に描かれる物語で、実写化やアニメ化もされるヒット作であり、未だ完結していない未完の名作でもある。
本作は、キャラクターたちの美しすぎるビジュアルも見どころだ。なかでも主人公の1人・大崎ナナのファッションは、特に多くの読者の注目を集めた。
パンクロッカーであるナナは真っ赤なリップに濃いめのアイラインを施しており、華奢な体で個性的なファッションを着こなしている。
なかでも印象的だったのが、イギリスの老舗ブランドである『ヴィヴィアン・ウエストウッド』を身に纏う姿だ。赤色の身頃に、襟が黒でハートの形になっている点が印象的な「ラブジャケット」と、トゥシューズのようにリボンを足に巻いて固定する木底の厚底靴「ロッキンホースバレリーナ」は、ナナを象徴するファッションの1つ。実写化でナナを演じた中島美嘉さんも、作中で身につけていた。
小顔のナナに大きな黒いハートの襟がよく似合っており、細い足で分厚い木底を鳴らして歩く姿に憧れたのは筆者だけではないだろう。
本作に『ヴィヴィアン・ウエストウッド』はよく登場している。たとえば、ナナのバンドメンバーの岡崎真一(シン)が愛用しているのがブランドを象徴するモチーフの「オーブ」を模した形のライターで、ジャラジャラと長い鎖のネックレスになっている。シンと芹澤レイラを繋いだキーアイテムとしても有名だ。
そして作中で明記されてはいないものの、デザインがよく似ているのと“老舗ブランド”というヒントから、ナナともう1人の主人公・小松奈々の婚約指輪はお揃いで『カルティエ』の「ソリテール 1895」ではないかと言われている。大きなダイヤモンドを4本の爪で支えるソリテールは、今も昔も女性の憧れのアイテムだろう。