
子どもの頃から見ていても色褪せず、大人になって見返しても新たな発見をくれるスタジオジブリ作品たち。幅広い年代に愛される理由は、ストーリーの面白さはもちろん、魅力的なキャラクターがあってのことだろう。
そこで今回は「父の日」にちなんで、ジブリ作品に登場する「偉大な父親たち」を取り上げていきたい。主人公たちを支える大きくたくましい彼らの姿に注目してみると、作品の新たな一面に気づくことができるはずだ。
※本記事には各作品の内容を含みます
■夢を追う我が子をそっと見守る『耳をすませば』月島靖也
柊あおいさんの漫画を原作とした『耳をすませば』は、1995年に公開された。
読書が趣味の中学3年生・月島雫は、ヴァイオリン職人を目指す同級生・天沢聖司と出会い、自身の将来や夢、そして恋愛にも向き合い悩んでいく。雫と聖司の甘酸っぱい恋模様も見どころだが、彼女たちのように進路に悩む世代にとっても背中を押してもらえる作品だ。
本作で偉大な父親といえば、雫の父・月島靖也だろう。聖司に触発され、自身の物語を書きたいという夢に挑戦することにした雫。しかし進路を決めなければならない大切な時期とあって、周囲は執筆に没頭する雫の様子に心配を隠せなかった。
見かねた両親は雫と話し合いの場を設ける。母・朝子が受験に集中していない理由を聞き出そうと詰め寄る一方、静かに話を聞いていた靖也は「雫のしたいようにさせようか、かあさん」と、口を開くのだ。
図書館に勤める靖也は、雫の頑張る姿を身近で見ていた。きっと、これまでとは違った彼女の並々ならぬ熱意を感じていたのだろう。結果2人は、雫を応援することを決断する。
子どもの意見を尊重するのはもちろん大切だが、簡単なことではない。我が子の将来を案じるからこそ、親はついつい口出ししたくなってしまうものだろう。
だが、靖也は頭ごなしに説教をしたりするのではなく、雫を1人の人間として尊重している。そして「人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにもできないからね」と伝え、人生の先輩として覚悟を説いている。
もし、身近な人や我が子が雫のような岐路に立った時、靖也のような言葉をかけられるだろうか。茨の道を進もうとする娘をそっと応援し、見守り続ける。そんな父親としての覚悟まで感じられる印象的なシーンだった。
■娘の旅立ちの時にかけた温かい言葉『魔女の宅急便』オキノ
角野栄子さんによる児童文学を原作とした『魔女の宅急便』は、1989年に公開された。本作は主人公の魔女の少女・キキが見知らぬ街で新たな一歩を踏み出すストーリーである。
魔女の世界のしきたりでは13歳になると修行として親元を離れ、独り立ちをしなければならない。キキも例に倣い、旅立つ予定を立てていた。
満月の晴れた夜に出発したいキキはラジオで天気予報を聞き、急遽、旅立ちをその日の夜に決めてしまう。
娘の決断を聞き、慌ただしく準備する母・コキリと父・オキノ。黒色の魔女装束に身を包んだキキを感慨深そうに見つめるオキノに、キキは「高い高いして!」と、ねだる。
まだまだ幼さの残るキキに高い高いをしたオキノは、「いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろう」と、寂しそうな様子を見せる。13歳といえば、親からしたらまだまだ子どもである。可愛い一人娘を送り出すのは、さぞかし心配だったことだろう。
この時、オキノはキキに「うまくいかなかったら帰ってきていいんだよ。」と、声を掛けている。親元を離れて一人暮らしを始める際、ワクワクはあれど不安や寂しさに心を折られてしまうようなこともあるだろう。そんな時に思い出す「いつでも帰ってきていい」という言葉は、どれほど励みになるだろうか。
本作においてキキと両親のシーンはほんの少ししか描かれていないが、たった数分のシーンでもキキが温かい家庭で大切に育てられてきたのかがよく分かる。
キキを愛情深く育ててきた優しい父・オキノ。ジブリの作品のなかでも「理想の父親像」として名前が挙がるのもうなずける。