■バーダックとギネ、サイヤ人では珍しい夫婦関係

 ギネとバーダックの繁殖目的以外で結ばれた絆は、サイヤ人社会において極めて異例のものだったようだ。鳥山さんによれば「サイヤ人は恋愛や結婚といった概念がなく、さらに家族の関係も希薄」であるらしい。それを考えると、バーダックとギネの間に芽生えた情愛は、サイヤ人の常識からすれば異質であり、むしろ“例外”と言って良いのだろう。

 この2人の特別な関係は、漫画『DRAGONBALLー放たれた運命の子供』や映画『ドラゴンボール超 ブロリー』でも印象的に描かれている。

 任務から帰還したバーダックを出迎え、抱き合い、息子たちの近況を伝えるギネ。「(ラディッツは)もう戦闘員だよ  ベジータ王子と組んで星に行ってる」と語り、保育カプセルで眠るカカロットを見せながら「あんたにそっくりだろ? とくに独特な髪型がさ」と微笑む姿は、まぎれもなく“良き妻”であり“良き母”であった。

■息子・カカロットとの別れ、母の涙

 ギネと息子・カカロットの別れも、印象深い出来事だ。

 フリーザの動きに不穏な気配を感じたバーダックは迫り来る危機を察知し、カカロットだけでも助けようと一人用のポッドで他の星(地球)に飛ばし、逃がそうとする。

 そんな夫の決断に、当初ギネは猛反対。「みんなでどこかににげようよ」と、ギリギリまで必死に訴える。しかしバーダックに「オレたちはスカウターですぐみつかってしまう」と説得され、我が子のことを思うギネは彼の判断を受け入れるしかなかった。

 そして「バーダックの考えすぎだったら すぐに迎えに行くからね!」と声をかけながら、カカロットをポッドに乗せ、見送る。涙が浮かべ別れを惜しむ姿からは、戦闘民族サイヤ人らしからぬ、ひとりの“母親”としての深い愛情が溢れていた。

 

 その後、フリーザにより、惑星ベジータの消滅ごと亡くなってしまったギネ。戦闘民族サイヤ人のなかでも珍しい、優しすぎる性格。そして夫・バーダックとの深い絆や、息子・ラディッツやカカロットを想う姿……。ギネという存在を知ると、無敵のヒーロー・孫悟空の「優しさ」に共通するものがあったことに気づかされる。

 ちなみにアニメ版でギネの声を演じたのは、悟空の妻・チチと同じ渡辺菜生子さんだ。つまり悟空は、“母と同じ声を持つ女性”と結婚したことになる。

 天下一武道会で、悟空がチチとの結婚を即決した理由……その背景には、チチにどこか懐かしい母の面影を感じ取っていたから、という解釈をするのも面白いかもしれない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3