
少女漫画のなかには「双子」が主役の作品も存在する。特別な絆や運命を描くうえでしばしば用いられるテーマであり、双子ならではの入れ替わりや、同じ人を好きになる展開などに夢中になった人も多いだろう。
しかしなかには、主役の双子の片方がまさかの死を迎えるという、衝撃的な展開が描かれた作品もある。かけがえのない自分の分身のような存在が亡くなってしまう……残されたもう片方の苦しみや悲しみまでもが丁寧に描かれた、ショッキングな名作少女漫画を紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■まさかの展開に絶望…未知のウイルスがもたらした悲劇『海の闇、月の影』
まずは『週刊少女コミック』(小学館)で1987年から連載された、篠原千絵氏の代表作の一つ『海の闇、月の影』を紹介したい。
本作は双子の女子高校生・小早川流風(るか)と流水(るみ)が、未知のウイルスにより戦わなくてはならなくなるダークサスペンスだ。
もともと仲のよかった流風と流水。しかし、事故によって未知のウイルスを取り込んでしまった2人は特殊な超能力を身に付ける。
感染時、2人の心境には大きな差があった。陸上部の先輩・当麻克之に同時に恋をした2人だったが、克之が選んだのは流風であり、それに嫉妬していた流水はウイルスによって負の感情が増幅し、邪悪さな性格になってしまう。そしてウイルスを他人に感染させ、意のままにコントロールして流風を殺そうとするのだ。
そんな流水を止めるべく立ち向かった流風は克之も巻き込みながら、ウイルスの治療薬を巡って苛烈な死闘を繰り広げていく。
最終的に夜の海にて対決することになった2人。流風の力が勝ったことで最期を悟った流水は、流花自身の手でとどめを刺してほしいと願う。「…あんたと双子で けっこう楽しめたよ」という流水。過去を思い出し、泣きながら流風は拳銃で流水の命を奪うのであった。
本作を読んでいる最中、容赦なく人殺しを続ける流水を早く倒してほしいと思っていたのだが、その反面、治療薬で元の優しい流水に戻るのでは?とも期待していた。
だが、流水は死んでしまう。しかもその命を奪ったのは、最愛の双子の流風だったことがなんとも切ない。
流水の死後、ウイルスを消滅させるために彼女のものすべてが焼却処分されてしまう。流水の生きた証が何も残らない状況に泣き叫ぶ流風に対し、克之が言った「きみ自身が流水の形見だ」というセリフには、双子ならではの硬い結びつきを感じた。
■冒頭から双子の片方が亡くなるショッキングな展開:小花美穂『パートナー』
1999年から『りぼん』(集英社)で連載された小花美穂氏の『パートナー』でも、双子の片方が亡くなる展開が描かれている。
本作は、高校生の双子姉妹・桜沢苗と萌、そして同級生で同じく双子の兄弟・添田賢と武の関係を通じて展開されるミステリアスな物語だ。
お互いに賢のことが好きな苗と萌は、それをきっかけに喧嘩をしてしまう。翌日、仲直りしようとしていた苗だったが、萌は交通事故で命を失った挙げ句、さらにその遺体が何者かによって盗まれてしまうのだ。
失意にくれる萌や賢、武だったが、死んだはずの萌はその後、人間剥製(L・S・P)として再び彼らの前に姿を現す。
萌を深く愛していた賢は、生き返った彼女の姿が実は人間剥製だったという真実を知り、精神的に追い詰められ自ら命を絶ってしまう。そして彼もまた、萌と同様に人間剥製にされ、蘇るという、二重の悲劇が描かれていた。
双子のうちの1人が亡くなる衝撃展開だけでなく、人間剥製として蘇る予測不能な展開に夢中になった読者も多いだろう。コミカルな描写もあるが、テーマを含め、全体的に重厚でダークな本作は『りぼん』では異色の作品であった。
それぞれの双子の死を通して、命の尊厳とは何か、人間はどうあるべきかを考えさせられる名作である。