
ガンダム作品……特に宇宙世紀シリーズにおける重要な要素として「ニュータイプ」の存在がある。超人的な直感力や洞察力、そして言葉を介することなく相互コミュニケーションを図る能力などを有する人物を指し、作中では「人の革新」などといわれていた。
そのニュータイプの研究が進められると、人の手で強制的にニュータイプ能力を引き出す技術が生まれる。そこで誕生したのが「強化人間」と呼ばれる存在だ。
作中で強化人間にされるのは戦争の被災者や孤児たちが多く、最後は悲しい結末を迎えるケースが圧倒的に多い。最近では『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』に「ドゥー・ムラサメ」という新たな強化人間が登場した。
人為的にニュータイプを作り出すためには、薬物投与や改造手術、過去のトラウマの助長や記憶の改竄など、非人道的な手段がとられることも珍しくない。そのため、『機動戦士Zガンダム』に登場したロザミア・バダムやフォウ・ムラサメのように情緒不安定な強化人間が多かった。
しかし、だからといって強化人間がみんな、ロザミアやフォウのように悲劇的だったわけではない。なかには一般的な強化人間と違って、悲壮感とはまったく無縁だった「異色の強化人間」もいた。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■コミカル担当の熱血漢が強化人間に…!?
『機動戦士ガンダムZZ』に登場したマシュマー・セロは、ハマーン・カーン率いる「ネオ・ジオン」に属する将校である。
騎士道精神あふれる高潔な人物で容姿端麗。いかにも貴公子といった風貌ながら、主であるハマーン・カーンを極端なまでに崇拝していた。彼女に対する強すぎる想いは、ときに彼の暴走を呼び、「残念なイケメン」としかいいようがないコミカルな言動のキャラだった。
敵陣営ながら憎めない存在であるマシュマーは、度重なる失態の末に強化手術が施されることに。強化人間となったマシュマーは非情な部分を見せたが、それでもハマーンからもらったバラを大切にするあまり部下に託すなど、以前と変わらない部分もあった。
ハマーンに反旗を翻したグレミー・トトを「悪いやつ」と罵り、グレミー軍についたラカン・ダカラン率いるドーベン・ウルフの部隊と激突。最後は、敵機を道連れにしながら謎の光に包まれて自爆するという、実に壮絶な最期を遂げている。
そのマシュマーの最期の言葉は「己の肉が骨から削ぎ取れるまで戦う! ハマーン様、万歳!」であり、強化人間特有の悲壮感とはかけ離れた散りざまだった。
しかし、そんな忠義の男マシュマーの死を察知した当のハマーンは「強化しすぎたか」という冷やかな反応。あまりの報われなさに、個人的には同情を禁じ得ない人物である。
■安定したメンタルを持つ、珍しい強化人間
劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場したギュネイ・ガスは、シャア・アズナブル率いる新生ネオ・ジオンの強化人間として、アムロ・レイを擁するロンド・ベル隊と戦う。
ギュネイは、これまでの強化人間とは違って精神的にかなり安定しており、ニュータイプ専用MS「ヤクト・ドーガ」のパイロットとして、専用兵装「ファンネル」を自在に使いこなしていた。
そんなギュネイの働きぶりにシャアも、「あれが強化人間の仕事」と評価する場面があった。
生粋のニュータイプに対する強い憧れを持つギュネイには、強化人間らしい悲壮感は感じられない。むしろクェス・パラヤに対する恋心からシャアに嫉妬するなど、ごく一般的な青年ならではの一面を見せていた。
そんなギュネイの強化について、富野由悠季氏が書いた小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』(KADOKAWA)のなかに記載がある。
ニュータイプ研究所所長のナナイ・ミゲル(小説版の名前はメスタ・メスア)は、「あくまで心理的な刷り込みを第一、薬物による反射作用の促進は、二義的なもの」とギュネイの強化について発言している。この言葉から、ギュネイには外科的手術などの過度の強化は行っていないようにも受け取れた。
『逆襲のシャア』でギュネイは、シャアを超える功績を挙げてクェスに認められたい一心でνガンダムを狙い続けたが、アムロのトリッキーな戦法の前に撃墜された。その、あまりにもあっさりした散りざまもあって、強化人間ならではの悲劇性を感じさせない珍しい人物だった。