
映画やドラマで多彩な顔を見せてくれる女優たち。“可愛い”や“美しい”イメージで親しまれてきた彼女たちが役にのめり込み、体当たりの演技を披露する……その姿に観客はいつも驚かされてしまう。
なかでも「猟奇的な犯人役」を演じる女優たちの姿にはゾクッとさせられる。優しげな笑顔が一転、恐ろしい表情となり、残酷な犯人として振る舞う……そのギャップには、思わず戦慄を覚える。
そこで今回は、映画やドラマで猟奇犯に徹した「女優たちの怪演」を振り返りたい。普段の印象を鮮やかに裏切り、観る者に恐怖を与えた彼女たちの姿は衝撃だ。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■皮膚マニアの連続殺人鬼『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』佐々木希
まずは、2016年放送のドラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジテレビ系)。この作品で佐々木希さんが自身初となる本格的な悪女役に挑戦し、その振り切った怪演が大きな話題を呼んだ。
波瑠さん演じる刑事・藤堂比奈子が、異常犯罪に立ち向かう本作。第3話では、幽霊屋敷と呼ばれる洋館で複数の女性の遺体が発見される。遺体はいずれも一部が切り取られ、犯人に持ち去られていたという猟奇的な連続殺人事件が発生する。
この事件の犯人・佐藤都夜を演じたのが佐々木希さんだ。都夜はクリーニング店を営む明るく美しい女性で、一見すると親しみやすく世話好きな人物だが、その素顔は異常殺人鬼だった。
モデル時代、ストーカーに硫酸をかけられ背中に大やけどを負った過去を持つ都夜は、以降「白く美しい肌」に異常な執着を抱くようになる。そして彼女は美しい女性たちを次々と殺害し、自分の傷跡を隠すため、気に入った皮膚を切り取り“皮膚のボディスーツ”を作っていたのだ。
物語終盤では、都夜が次なる標的の女性と主人公・比奈子を拉致。「私ね…あなたの白くて綺麗なお顔も気に入っちゃったの…だからマスクも作ろうと思って」と、不気味な笑みを浮かべながら裁ちばさみを手に迫る姿は、都市伝説の「口裂け女」を思わせる恐ろしさがあった。
これまでの清純派イメージを覆す佐々木さんの怪演に、視聴者は戦慄と驚きの声をあげたことだろう。
ちなみに、のちのインタビューにて佐々木さんは「悪女役をどのように演じていけばよいか不安だった分、演じ終えた後はスッキリしました!」と語っており、初の挑戦を心から楽しんだことを明かしていた。
■シリーズ屈指のヴィラン『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』小泉今日子
『踊る大捜査線』シリーズにおいて、もっとも異質で戦慄を覚える犯人として語り継がれるのが、小泉今日子さんが演じた日向真奈美だろう。
初登場は、1998年公開の劇場版第1作『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』だ。
真奈美は他人を巧みに操り、無関係だった者さえ犯罪者へと次々と変貌させていく。一見穏やかで知的な佇まいの裏に、底知れぬ異常さと歪んだ美学を隠し持つキャラクターだった。
物語中盤、織田裕二さん演じる青島俊作が湾岸署のソファで仮眠を取っていたところ、突然の悲鳴に飛び起きる。そこにはナイフで警官を襲い、奪った拳銃を無造作に向ける真奈美の姿があった。
満面の笑みを浮かべながら「早く私を死刑台に連れていけ こん中にあんだろ?」と語る真奈美。矯正器具の目立つ歯がやけに不気味で、さらに警察署に死刑台があると本気で思っている常識外れの感覚に背筋が凍ってしまう。
さらに、否定されるや否や豹変し「そんなかったるいこと言ってんじゃねぇよ! このクソ豚野郎!!」と怒声をあげ、なんと自らのこめかみに拳銃を当てて引き金を引く。しかし弾は装てんされていなかったのか、自殺未遂に終わり取り押さえられるのだった。
冷静さと異常さを行き来するその姿は、まるで映画『羊たちの沈黙』(1991年)のレクター博士を彷彿させる。知性と不気味さを併せ持つ猟奇的な犯人として、大きなインパクトを残した。
真奈美はその後のシリーズにも登場し、『踊る大捜査線』史上屈指の“カリスマ・ヴィラン”として存在感を放ち続けた。
なお昨年、12年ぶりに公開されたシリーズ最新作『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』でも、彼女にまつわる事件の余波が描かれており、「日向真奈美」という存在がなおも『踊る』世界に深い影を落としていることがうかがえる。