■序盤では見られなかった戦場においての冷静さ

 続いては、第32話『強行突破作戦』で見られた戦闘シーンから。

 前後からの挟撃を受けたホワイトベースは、前方のドレン艦隊を強行突破する作戦を敢行する。第31話でホワイトベースの砲手を務めたスレッガー・ロウがGファイターで出撃するが、その飄々とした性格ゆえ、仲間に良いところを見せまいといち早く発砲。

 それを見たカイは「早い、早いよ!」と、仮にも職業軍人であるスレッガーに対して元民間人である彼が笑みを浮かべながらたしなめるのである。カイの言う通り、その砲撃は宇宙の闇に消え、パイロットとしても十分に戦場慣れしている様子を見せた。

 直後に正面からバズーカを構えたドムが迫るが、カイは「もっと引き付けるんだ……!」と冷静に射程を見極めドムの砲撃を回避。カイも返す刀で発砲し、見事にドムのコックピットを打ち抜くのである。

 第8話『戦場は荒野』でのカイの初陣は、その目に涙を浮かべるほどガチガチなものだった。だが、第32話で見せたこの一連のシーンは、スレッガーをして「見かけによらず、やることは冷静だな」と言わしめるほど。カイのパイロットとしての成長ぶりが分かるエピソードだ。

■絶望的な状況でも戦うことを辞めない強い精神

 最後に、最終第43話『脱出』での戦闘シーンから紹介しよう。

 左右のエンジンが破壊され、動けなくなったホワイトベース上にて必死に応戦するカイとハヤトだが、四方八方からジオン軍の攻撃を受け窮地に陥ってしまう。このときの猛攻で撃墜されないだけでも十分にすごいが、窮地に立たされながらもカイがしっかりと撃墜数を重ねている描写も見られた。

 ハヤトのガンタンクが戦闘不能になったことを横目に見ながら、敵が湧いてくる通路へ向けて発砲。すると直後に駆けこんできたドムを、決め打ちする形で撃墜するのだ。

 その後、別の通路からザクの砲撃を受け右足を損壊するが、倒れ込みながらも即座に反応して発砲し、一撃でそのザクも撃破するのである。極限下においても冷静かつ完璧なエイム力で敵を仕留めるこの場面でのカイは、まさにエースパイロットそのものだ。

 ガンキャノンが戦闘不能になると、ボヤきながらも即座に銃を取り白兵戦に乗り出す様子も見られ、最終話においてはかつて「軟弱者!」と呼ばれたカイとは全くの別人である様子が見られたのである。

 シリーズを通して圧倒的な強さを誇るアムロの陰に隠れて、カイもまた一年戦争を通して目覚ましい成長と活躍を見せていたのである。加えて終盤においては、脳内に語りかけるアムロの声をキャッチしていることから、ニュータイプとしての素養も感じさせた。

 ちなみに、富野由悠季氏による小説版『機動戦士ガンダム』では、ニュータイプとして明確に覚醒しており、アニメでのこうしたシーンはいずれもその才能の豊かさを感じさせるものだった。キャラクターとしては紛れもないエースパイロットだったと断言できるだろう。

 一年戦争後はジャーナリストとして生き、さまざまな関連作品でその時代のキャラクターたちと交流している。今後発表される作品でまたいつか、カイの勇姿を見られる機会が訪れるかもしれない。

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