■上映時に起こった驚きの出来事
当時は今のような「全席指定」ではないため、人気映画の場合は列に並んで入場を待ち、座席も「白いシート(=指定席)」以外は、早い者勝ちでした。
友だちと3人で着席し、私はずっとガマンしていたトイレに向かいます。が、ここでも長蛇の列。ただ、一緒に並んでいる女性全員が、私と同じように『ガンダム』の映画を観にきたと思うと、誰かに自慢したくなるような不思議な気分になりました。
CMが終わり、映画館内が真っ暗になって映画がスタート。おなじみの「コロニー落とし」の場面で、なぜか「カシャ、カシャ」というカメラのシャッター音が聞こえてきます。続いて『機動戦士ガンダム』のタイトルロゴの場面でも同様の出来事が……。
たしかに、首にカメラを提げている人を何人も見かけましたが、まさか上映中の映画のスクリーンを撮影するとは思いもしませんでした。
その後シャアが登場した場面では、今度は「キャー!」という女性の歓声が聞こえ、私と友だちはめちゃくちゃ驚きます。ガンダムが起動して立ち上がる瞬間や大気圏突入時でも、観客席からはどよめきのような声が聞こえてきました。
現在の「応援上映」ほどではないにせよ、このときの『ガンダム』の上映では、スクリーンに向かって声を出す人が少なからずいたのです。加えて、今なら“映画泥棒”として完全にアウトですが、上映中に写真を撮影したり、音声を録音したりする人までいました。
映画館では静かにするよう親に厳しく言われていた私にとって、この光景はドキドキするほどのカルチャーショックでした。
ガルマ様が登場したときにはひときわ大きな女性の歓声があがり、マチルダさんの登場シーンでは多数のシャッター音……。印象的なシーンや人気キャラが登場するたび、どよめきや歓声があがる劇場に、最初こそ「えっ?」と思った私でしたが、いつしか映画と観客の一喜一憂が連動するのが楽しくなっていきました。ちなみに、もっとも大きな歓声とシャッター音が聞こえてきたのは、「シャアのシャワーシーン」でした(笑)。
映画版では描き下ろしの差し替えカットがあると聞いていたので、最初は目を皿のようにしてスクリーンを凝視していましたが、知らないうちに作品に没入。上映時間の2時間あまりはあっという間に過ぎ去り、やしきたかじんさんが歌う主題歌『砂の十字架』が流れ出すと、感極まった私はポロポロと泣いてしまいました。
今でもこの曲を聞くと条件反射のように涙腺がゆるみ、感受性の塊だった中学時代の自分に戻ってしまいます。
エンドロールが終わり場内が明るくなったとき、泣いたことが友だちにバレるのが恥ずかしくて、変なテンションでごまかしたのを思い出します。
上映後は入場時と違ってなかなか人が動かず、私たちがロビーに出た頃には外は薄ら暗くなっていました。映画のパンフレットを買おうと思いましたが、物販コーナーにはとんでもない行列ができ、パンフレットは「完売」していたと知ります。
ただ、パンフこそ買えなかったものの、この日は年上女性のアニメファンに出会い、雑誌でしか見たことがなかった本物の「ファンジン(創作誌)」や個人イベントのチラシの現物に触れ、何より『機動戦士ガンダム』という作品の熱狂の現場に立ち会うことができた。
私にとっては本当に、本当に濃厚な1日でした。
そして、このとき初めて見聞きした出来事は、その後の私のオタク人生を形成するうえでも、大きな礎ともなったのです。